
全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2025年5月26日号には京源 紋章上繪師 波戸場承龍さんが登場した。
【写真特集】大物がズラリ!AERA表紙フォトギャラリーはこちら





* * *
着物に家紋を手描きで描く職人、紋章上繪師(もんしょううわえし)として50年間活動を続ける。国の無形文化財である伝統技術と、デジタル技術を融合させた新しいデザイン手法で事業を展開している。
東京・日本橋の複合商業施設「COREDO室町」の大暖簾の紋、YOHJI YAMAMOTOへのデザイン提供、ザ・ペニンシュラ東京のメインロビーのインテリア、フェラーリの車種のオリジナル紋など、国内外問わずジャンルを超えたオファーが絶えない。
1910年創業の京源の3代目として紋の道に入った。5年間の修業後に独立。しかし、着物の需要は減り続け、紋章上繪師としては立ち行かず、85年に着物の仕立てまでする総合加工の会社を起こす。
その後も大手の進出により、解散を余儀なくされる。さらにシルクスクリーン技術の台頭で、バイトでも手軽に家紋を着物に入れられるようになり、次第に仕事を楽しいと感じられなくなった。
もともと、家紋を新しい形で表現したいという想いが強く、自分にしかできないことを模索する中、家紋と江戸小紋を組み合わせた家紋額というアート作品を発表、国内外で展示会を定期的に行った。
しかし、デザインにシフトしたところで、ビジネスモデルはなかった。それでも、根拠のない自信だけはあった。
大きな転機が訪れたのは、2010年。デザイン編集ソフト「Illustrator」のデータで家紋を納品してほしいと依頼された。当初は聞いたこともなかったが、承諾した。
伝統的な家紋の描き方は、「分廻(ぶんまわ)し」と呼ばれる極細の筆を付帯した竹製のコンパスと定規のみを使い、円と直線だけで勝負する。
Illustratorの正円ツール・直線ツールは、家紋を描く手法に応用できる。寝る間を惜しんで没頭し、仕事は徐々に増えていった。
「古い技術は時代に合わせて変化してきました。今後も、誰もやってこなかった分野に家紋で挑戦していきます」
企業のロゴのように自由に家紋は作れる。今後は、日本のものづくり職人と手を組み、世界中で展開するのが夢だ。(ライター・米澤伸子)
※AERA 2025年5月26日号
こちらの記事もおすすめ 世界が認めたTOTOのシステムキッチン 「心おどる場所」を目指したこだわりのデザインとは