中国が台湾へ攻撃に踏み切る「台湾有事」が遠くはないのではないか。そんな暗い予感を抱かせる展開である。有事の「ある・ない」を我々が決めることはできない。だが有事を防ぐ手立てを考え、有事に備える体制を講じる必要性は確かに高まっている。
■米国で歓待された蔡氏、同じ時期に馬氏が訪中
中国の怒りも理解できるほど、蔡英文総統の訪問に対する米国の歓待は際立っていた。
5日午前10時に始まったマッカーシー米下院議長との会談場所に選ばれたのはレーガン大統領図書館。米台断交後、台湾の安全を保障するため様々な政策を実現した大統領で台湾の恩人である。ホテルから図書館までの沿道が「元首待遇」で交通規制が行われた。
訪問は非公式とされたが、下院議長は正副大統領につぐ米政治ナンバー3のポジションである。集まったメディアは米国内外の150社。二人の会談内容は秘密とされたが、マッカーシー議長は「米国と台湾人民の友情はかつてないほど強い」とツイッターで書いた。二人の会談後、別室ではマッカーシー議長を含めて20人の下院議員が待ち受けていた。6人の民主党議員、14人の共和党議員からなる超党派の顔ぶれで、米国側は「民主党や共和党に関係なく、我々は台湾を支える」と述べた。
会談を終えた蔡氏はレーガン氏が搭乗した「エアフォース・ワン」の機体の前で下院議長との共同会見に臨み、論語の句を引いて「徳が高ければ孤独にはならない」と述べた。権威主義で評判を落とす中国を暗に批判しつつ、自由や民主を守る台湾は世界の友人がついていると自信を見せた。
蔡氏が米国でとりわけ人気が高い理由はいくつかある。
彼女の冷静沈着な言動、英米留学で鍛えた英語の表現力、女性という点なども含まれるだろう。米国のタイム紙で二度にわたって表紙に取り上げられるなど、我が国の岸田首相など及びつかないワシントンでの知名度と人気を誇っている。いまアジアの政治リーダーのなかで最も米国の評価が高い政治家なのではないだろうか。それが、国連未加盟、米国との国交がない「国」の指導者という点は皮肉なところだ。