中国は4月8日から10日まで、軍事演習を台湾近海で実施した。台湾の蔡英文総統が訪米した対抗措置とみられる。蔡氏が訪米した同時期には、野党国民党の馬英九前総統が訪中。米中対立が激化している。AERA 2023年4月24日号の記事を紹介する。
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中国語に「下馬威(シア・マー・ウェイ)」ということわざがある。
直訳は「馬を下りて威張り散らす」となるが、着任早々の政治家や役人は何かと過剰反応しがちである、という意味がある。
中国では、昨年秋の共産党大会で習近平氏の「3選」が決まり、この春の全国人民代表大会(全人代)で腹心の「秘書軍団」を政府重要ポストに配置した。「習帝国」の本格始動となったばかりのタイミング。そこに、対立する与党民進党の蔡英文総統の訪米という、冷水を浴びせる計画が持ち上がった。
中国が、黙っているはずがない。やはり、というべきか、まずは「力」を見せつけることが習近平流だ。
8日から10日まで、中国は大規模軍事演習を台湾近海で実施した。台湾の領海の基線となる24カイリ近くまで人民解放軍の艦船が入りこんだとされる。台湾海峡の中間線を越えて連日、数十機の中国戦闘機が台湾へ接近した。
あくまで演習ということを理解している台湾世論は落ち着いていたが、台湾上陸という「本番」を模した威嚇的な演習は、昨年8月のナンシー・ペロシ下院議長(当時)の訪台時に続いて2度目になる。規模は昨年より小さいが、国産空母山東号を台湾の東海岸、つまり太平洋側まで送りこんだ点は、軍事的にみれば大きなアップグレードだ。空母の東海岸への展開により、米国の台湾支援は困難にさらされる。
中国が米国を意識した点は、「連合利剣(keen sword、鋭い剣)演習」という演習の名前からもうかがえた。このkeen swordは毎年日米が行っている演習と同じ名前だ。台湾のネットでは「演習の名前まで中国はコピー(模倣)するのか」と揶揄する声があがった。筆者は偶然ではなく、中国が意図的に日米演習と同じ演習名にしたと考える。「鋭い刃は、自分たちも持っている」。米軍、そして自衛隊の台湾有事への関与は許さない。そんなメッセージが込められていた可能性がある。