上原浩治氏も投球フォームが疑問視されたことがあった(日刊スポーツ)

「米国には『野手投げ』はありません」

 メジャーで編成担当を務めていた球界関係者も「米国には『野手投げ』の概念がありません。野手投げの何が悪いんですか? 日本の指導は遅れていますよ」と同調する。

「根尾は上半身の力が強いので、下半身を使っていないように見えるが、それは周囲から見た感覚です。本人から見れば自然な投げ方なので修正する必要がないのに、左足を上下動する二段モーションを試みたり、体をひねることで下半身を使うことを意識したりするあまり、フォームのバランスが崩れて強い球を投げられなくなっていた。もったいないですよ。下半身を使えず、体の開きが早くなることで制球がばらつく投手は修正箇所を改善する必要がありますが、投球フォームの根本を変えてしまっては良さが消えてしまう。個々の投手によってフォームは十人十色ですし、尊重されるべきです」

巨人のエースにもあった「野手投げ」批判

 球界を代表する投手の中でも、「野手投げ」と言われた投手がいた。史上初の日米通算100勝100セーブ100ホールドをマークした上原浩治だ。テイクバックが小さく、一見すると下半身を使えていない「立ち投げ」のような投げ方だった。「下半身を使って打者に近いリリースポイントで球離れした方がいい」という当時の理想のフォームからかけ離れた投げ方だったが、抜群の制球力と落差、軌道が変幻自在のフォークを武器にテンポ良くアウトを重ねる。新人の1999年に20勝するなど巨人のエースに駆け上がり、メジャー挑戦後はリリーバーで起用されて活躍。2013年にはワールドチャンピオンに輝いたレッドソックスの守護神として、メジャーで日本人初のワールドシリーズ胴上げ投手になった。

 現役時代に対戦したセ・リーグの打者はこう語る。

「上原さんの直球は球速表示が決して速いわけではなかったけど、球の出所が見づらいんですよ。テイクバックから球を離すまでの時間が短かったので、タイミングをなかなか合わせられずに差し込まれてしまう。途中まで直球とフォークか見分けがつかないので、どう対処していいのか困りましたね」

 根尾は投球フォームで試行錯誤したが、その過程で得るものがあっただろう。現在はビハインドの場面で登板しているが、1軍のマウンドで結果を残し続ければ、ロングリリーフやリードしている展開で起用される可能性が出てくる。ドラフト1位で4球団競合の末にプロ入りして7年目。いよいよ根尾が、自身の存在価値を証明するシーズンになるだろうか。

(今川秀悟)

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