
現代日本に生きる女性たちは、いま、何を考え、感じ、何と向き合っているのか――。インベカヲリ☆さんが出会った女性たちの近況とホンネに迫ります。
【写真】アルコール依存症の母に刺されそうに…「私はコメディとホラーの中間を生きている」
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駅前で待っていると、杏さん(30代前半/仮名)は軽やかな表情でやってきた。腰まで伸びた艶やかな黒髪に、透き通るような白い肌。穏やかで牧歌的な雰囲気から、幸せな家庭で育った印象を受ける。
そんな杏さんから、まさか過酷な半生を聞くことになるとは思いもしなかった。
「連載を読むと、悩みを話されている方が多いじゃないですか。私は何だろうって考えると、やっぱりあるんですよ」
喫茶店で落ち着くと、杏さんは深刻そうな顔でそう言った。
本当は誰かに聞いてほしかった
「誰にも話したことがないし、普段は隠している部分なんです。でも、本当は誰かに聞いてほしかったんですよね。だから今、すごく震えています……」
テーブルの上にホットココアが運ばれてくると、杏さんはそれに手をつけないまま、まずは家族の話から始めた。
「これが両親の若いころの写真です。父は呉服屋さんの店長で、母は宝石店の店長をしていたらしいです」
スマホの画像を見せてもらうと、そこにはバブル期真っただ中といった雰囲気の、角刈りにひげを生やしたスーツ姿の男性と、赤い口紅でモード系のキリッとした女性が映っていた。ほんわかした見た目の杏さんからは、想像がつかないほどいかつい2人だ。
「ひどい言い方をすると、サルとサルが出会って、サルコミュニティーを作ったぐらいなものです。だから私もサルなんだと思って生きています」
罵倒し合う両親
杏さんは宮城県出身で、上京して14年になる。幼いころは、両親の壮絶な喧嘩を目の当たりにして育った。
「私が生まれたら、父は勝手に仕事を辞めて、母から私を取り上げるようにして子育てを始めたらしいです。手を出すと怒鳴られるから、母は私に近づけなかったみたい」
娘が可愛いとはいえ、父親としては珍しいタイプだろう。働かない父の代わりに、母はいくつもアルバイトを掛け持ちしていたという。
「両親は、お互い罵倒しあっていて、喧嘩のたびに『子どもが見てるだろ』『怖がってるだろ』って私を引き合いに出すんです。私は家族のためにできることはやろうと思って、期待に応えるようにしてウェ~ンって泣いていました。当時は、『お父さんお母さん、喧嘩やめて!』って言う私と、『バカだな』って冷静に見ている私と、2人の自分がいましたね。早くこんな世界から抜け出して、まともなところに行きたいって思っていました」