
選挙の応援演説中の政治家がまたもや標的になった。要人警護の課題にとどまらず、選挙演説の在り方や、国民の危機管理意識も問われている。
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衆院補選の応援演説のため和歌山市の雑賀崎漁港を訪れた岸田文雄首相を襲った爆発事件。警察官と聴衆の男性が軽傷を負い、兵庫県川西市の無職、木村隆二容疑者(24)が威力業務妨害容疑で逮捕、送検された。
「パイプ爆弾がすぐに爆発しなかったのが不幸中の幸い。火炎瓶だったら一発アウトでした」
こう警鐘を鳴らすのは、さいたま市に本社のある危機管理コンサルティング会社「セーフティ・プロ」代表取締役で危機管理コンサルタントの佐々木保博さん(65)だ。
木村容疑者が投げた手製の爆発物が落下したのは首相の背後。爆発したのは投げられてから約50秒後だった。このタイムラグがあるかないかで、今回の事件の被害規模は大きく変わっていた可能性がある。
■SPの初動は的確だった
元埼玉県警の刑事で要人警護の経験も豊富な佐々木さんは昨年7月に安倍晋三元首相が奈良市内で銃撃された際、警備に穴が開いた要因として「前日夜の安倍元首相のスケジュール変更」と、要人警護に不慣れな地方が現場だった点を挙げた。
今回はどうか。
「警備体制は私服のSPも含め明らかに増強されていました。岸田首相の背後にSPを配置し、演説場所の前列も関係者で埋めるなど不審者を首相に近寄らせない措置が取られていました。爆発物を投げ込まれた直後のSPの初動も的確で、装備品も有効に使われていたと思います」(佐々木さん)
今回の岸田首相の全国遊説に際しては、安倍元首相銃撃事件を受けて改正された「新警護要則」に基づき、入念な警備計画が練られたとされる。テレビ映像では、岸田首相のすぐ近くにいたSPが落下した直後の爆発物を蹴り飛ばすのと同時に、携行型の防弾盾を広げて首相の背後を覆いながら迅速に現場から退避させているのが分かる。無駄のない動きが見て取れるが、佐々木さんはこう指摘する。
「一番の問題は犯行を未然に防げなかったこと。この点においては何も変わっていない、と言わざるを得ません」
■日本人の危機意識の低さ
安倍元首相銃撃事件と共通するのは選挙運動中の政治家が狙われた、という点だ。人の往来が激しい屋外では特に、不審者をチェックして未然に排除するのは難しい。今回の和歌山市での襲撃事件を受けて、演説場所によっては警察が岸田首相らの選挙演説の際、手荷物検査と金属探知機による検査を導入するケースも報道されている。選挙演説の在り方自体、見直す時期に来ているのかもしれない。