ボストン美術館の葛飾北斎展に、AERA本誌発の書籍で蜷川実花さんが撮影した羽生結弦さんの写真が展示されている。なぜ展示に至ったのか。きっかけはSNSだった。AERA 2023年4月24日号の記事を紹介する。
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「クリエイティビティーというものは、過去と現在、さまざまなものから影響を受けてつながっていくものです」
そう、メールインタビューにこたえてくれたのは、アメリカのボストン美術館で日本美術のキュレーターを務めるサラ・トンプソンさんだ。約5万3千枚という世界最大級の日本版画コレクションを担当している。
そのボストン美術館で開催中なのが「Hokusai:Inspiration and Influence」。葛飾北斎の作品を展示しながら、それらが他の作品に与えた影響やつながりも紹介している。
■非対称のフレーム
その中に、昨年10月に出版した、AERA特別編集『羽生結弦 飛躍の原動力』に掲載された、蜷川実花さん撮影の羽生結弦さんの写真が展示されている。
「類似点は構成にあります。下から見た曲線の弧は、非常にエレガントな形状であると同時に、大きな力強さを感じさせます。弧を描いた形は、北斎の版画では富士山、写真では羽生さんの顔など、重要なものに注意を向けさせる非対称のフレームでもあります。衣服の青と白の色が類似性を高めています。蜷川さんは写真を撮る際に、北斎のことを考えていなかったのではないかと思います。ただ、彼女は優れた写真家として、このようなポーズと角度がよい結果をもたらすことに気づいたのだと思います」(サラさん)
アートはこのように無意識のうちにも影響を受けて、次世代につながっていくのだという。ただ、不思議なのは、どのようにしてこの写真が目に留まり、ボストン美術館に飾られるに至ったのかだ。それにはSNSが大きな役割を果たした。
■ツイッターがきっかけ
サラさん自身、2020年の春、コロナ禍に羽生さんの大ファンになった。美術館が休館になり不安の日々が続くなか、ネットで動画を見て、羽生さんの演技に釘付けになったという。
「彼の美しいスケートを見ていると、自分の問題から頭が離れ、困難な状況でも前に進み続けられるように励まされ、人生について気分が軽くなることがわかりました」(サラさん)
本誌の羽生さんの書籍が話題になったとき、サラさんは誰かが「北斎の大波」との類似性についてツイッターで投稿しているのに気づいた。この北斎展を企画中だったため、羽生さんの写真を飾りたいと熱烈に思い、展示にこぎつけたのだという。
優れたアートは時空を超えてつながる──。これを証明した今回の展示。会期は7月16日までだ。(編集部・木村恵子)
※AERA 2023年4月24日号