近年、この男性のように、マスターベーションでは射精できるが、膣内では射精ができない人が増えている。男性不妊外来で多くの患者と接し、日本性機能学会副理事長も務める辻村晃教授(順天堂大学医学部付属浦安病院泌尿器科)は言う。
性交渉がうまくできない
「性機能障害に関する相談で一番多いのは、性交渉がうまくできないというもの。なかでも近年、マスターベーションでは射精できるのに、女性の膣内ではできないという“膣内射精障害”と呼ばれるケースが非常に増えています。これは実は、日本特有の現象でもあります」
男性不妊症の原因を、1997年度と2015年度の全国調査で比較すると、膣内射精障害を含む性機能障害が不妊症男性の3.3%から13.5%へと4倍以上に増えており、現在、多くの男性が不妊症の原因として悩んでいることになる。
膣内射精障害は、表に出てきづらい悩みだが、冒頭の男性のように、妊活を始めた時に問題として表面化しやすい。実際、辻村教授の外来を訪れる男性の多くが、20〜30代の妊活世代。相手を前に、「排卵日だから成功させねば」というプレッシャーを感じ、射精までたどり着かないジレンマを抱えている人が目立つという。
不適切なマスターベーションが原因か
「性交渉を完遂できないことが続くと、相手から怒られたり、関係がギクシャクしたりという影響が出てくる。結果的に“その日”が不安で怖くなったり、逃げたくなったりして、パートナーとの性交渉から遠ざかっていってしまうという男性は少なくありません」(辻村教授)
原因の過半数は不適切なマスターベーションによるもので、体内の射精のトリガー(射精のきっかけとなる刺激)が、性交渉時の膣の刺激とかけ離れているために、膣内で射精ができなくなるケースが多いという。
「膣内射精障害を治す特効薬はありません。治療法は大きく分けて2つ。1つが適切な刺激でマスターベーションをするリハビリ治療。もう1つがED治療薬など薬による治療です」(同)
性交渉にこだわりすぎると…
いずれの治療も、それなりに時間を要するという。
「そのため、35歳を超えて妊娠・出産を望んでいる場合は、性交渉によらない妊娠法、つまり不妊治療などを提案するケースが多いです。性交渉にこだわりすぎることで、逆に妊娠・出産から遠ざかりかねないためです」(同)