東京大学経済学部4年の原田怜歩(らむ)さん(本人提供)
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 2016年度から導入された東京大学の学校推薦型選抜(推薦入試)は、今年で10回目の入学者を迎えた。これまでの合格者は全学部合わせて802人。そのうちの一人、原田怜歩(らむ)さん(21、経済学部4年)は、中学生のころから公共トイレの調査・研究に打ち込んできたトイレ研究家だ。いまは「トイレの選択肢を増やす」ことを目標に公共トイレのデータ化、配置の最適化などを東大で研究するかたわら、それを社会実装するための手段として自身でプロデュース会社も経営している。「トイレ」で東大に入った女子学生とは一体どんな人物なのか。

【写真6枚】東京大学に「トイレ研究」で入学した原田怜歩さんの中学生時代の日本全国トイレの旅ノートがすごい!

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 原田さんにとって、トイレは小学校時代からの関心事だった。なぜなら仲の良かった友人が、男の子として生まれながらも、女性としての性自認を持つトランスジェンダーだったからだ。

「どちらの性のトイレに入るか」

 今も多くのトランスジェンダーを悩ませる問題にその友人も直面していた。生物学的には男性、見た目も男の子。だから女性トイレには入れない。かといって、男性トイレにも入りたくない――そんな友人の思いを原田さんも共有していた。

「だから、遊べる場所がかなり限られていたんです。多目的トイレがある公園や、トイレが男女共用のお店しか選べなかった。トイレの選択肢がないことで生活が制限されることを友人と共に体感しました」

 一方、原田さん自身にとってはトイレは快適でくつろげるプライベート空間だった。そんな常識が覆されたのが、中学3年の夏休み。アメリカ・フロリダ州に短期留学したときだった。

高校2年生のとき、原田さんらのグループでつくったトイレットペーパー。トイレにまつわる社会課題がマンガで印刷されている(本人提供)

「家族に会えないことも、日本食が食べられないことも平気だったけれど、唯一ホームシックを感じたのがトイレでした。街中のトイレはどこもあまり清潔ではなく、上下に隙間があって隣の音も全部聞こえてくる。落ち着ける空間ではなかったんです」

 そのことをホストファザーに漏らすと、「アメリカにもおもしろいトイレがある」と大学に行くことを勧められた。そこで見たのがオールジェンダートイレだったという。

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