
接客前に要望をヒアリング
今年、独立して6年目を迎える。利用者は20〜70代と幅広く、全国から問い合わせがある。
「接客日より前に、1時間ほどかけて、障がいの確認と、どんなサービスを受けたいか要望をヒアリングする機会を設けています。本人との意思疎通が難しい場合は、家族や支援者が同席する場合もあります。サービス内容は、イラストを見せながら一緒に決めていくことも多いです」
本人ではなく、家族が切実な思いを持って問い合わせてくることも少なくない。要望はさまざまだが、「具体的な性教育をしてほしい」という相談も多いという。善悪の区別がつかず、外出時や人前でも性器を触ってしまう息子に困り、親から「自慰行為のやり方を含めて、やっていいこととダメなことを教えてあげてほしい」と連絡がくるケースもある。
「性的なことで家族が困った時、相談する先がないというのが現状だと思います。性器を触ったり、自慰行為をしたりするのも、“やったらダメ”では解決にならない。公衆の面前など、触ったらダメな場所もあるけれど、触りたい気持ちは当たり前。まずはルールを学んで、環境を整えるところから始めましょう、という話をしています」
日本の性教育は遅れている
小西さんは日本の性教育の遅れの弊害も実感している。
「こうした基本的なことを授業で習わないのも課題だと思います。健常者が学校以外のどこかで学んで判断していることも、障がいがある人はその機会がなかったりする。子どもに性の話をいつからしていいかわからないという親も多い。困った親御さんが連絡をくださるケースも少なくないのです」
「生まれて初めて男になれた」
さまざまな障がいがある人と向き合う中で、男性として、当たり前に持つはずの欲求を抑え込むしかなかったり、踏みにじられたりすることに対し、傷ついている人がいることも目の当たりにしてきた。
独立して間もない頃に出会った50代の男性は、女性と関わりあったことがなく、女性との性的な関係を持つのも初めてという人だった。小西さんの接客の中で、初めて女性の身体に触れたという男性が「生まれて初めて、男になれた気がする」と口にした瞬間は小西さんの原点で、いまも忘れられないという。
「この仕事を選んでよかったと思えた瞬間でした。一緒に過ごす時間の中で、男性としてのアイデンティティーを感じてもらえたことがうれしかった。障がいがあると、サービスを利用したいと思っても、周りの人にサポートしてもらわないといけなかったり、環境によってはアクセスする接点すらもなかったりする。生理的な欲求があっても、諦めるしかない人も多い。そんな人を一人でもなくしていきたいと思っています」