
──やがて4人の事情とともに、人間の本質が暴かれていく。「映画に出ているあなたは女優としてAクラスかもしれないけど、Sクラスにはなれない」など、グサッと刺さるセリフもある。
堤:有名になりたいけれど今一つ届かないとか、夢と現実のギャップに悩んでいるとか、4人にはこの舞台に人生がかかっている事情がある。でもそれは役者の世界だけではなく、いろいろな分野で頑張っているどんな人にも共通する普遍性があると思うんです。
中村:記者の方も同じじゃないですか? Aクラスの記者だけどSクラスにはなれないとか。本作の会話のすべてが自分自身と向き合う人生の問答になっている。特に日本のエンターテインメント界で売れる・売れないなどについて語られることはほとんどありません。チャレンジングな題材だと思います。
堤:4人はいずれもどこか「被害者意識」を持っているんです。売れないのは自分が悪い、あるいは時期が悪い、社会が悪いなど──。僕はこれまで50本以上の作品を作ってきましたが、舞台の上やカメラの前に立って何かを表現するときに被害者意識は一番邪魔なんです。そう思っている方の演技はどうしたって何も考えずに演技にぶつかっている人には勝てない。ミュージシャンももしかしたらそうかもしれないですが。
中村:たしかにそうですね。
堤:先のコロナ禍でエンタメ界が真っ暗になってストップしていたとき「被害者意識を持っていてもはじまらない!」と文化庁に申請して支援金を獲得し、映画を作ろうと動いたのがまさに本作に登場する林田麻里さんや広山詞葉さんたちです。僕も刺激を受け、映画への向き合い方や考え方が変わりました。それに製作委員会方式で作られるようになって日本の映画は「優しい映画」ばかりになっていると感じる。映画とはもっと人間の裏やどぎついものを描いてもいい。そんなエッジの効いた映画にしたかったんです。
(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2025年4月21日号より抜粋
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