原因不明の発熱が続いた80代女性
気温30度以下でも発症してしまう熱中症には、医者さえも判断がつきにくい「うつ熱」という病気もある。うつ熱とは、放熱機能が失われて体温が上がることを指すので、熱中症患者は全てうつ熱を合併していることになる。
生坂氏の外来には例年、5月から6月にかけて全国から、「原因不明の発熱」ということで「うつ熱」の患者が多数紹介されてきていた。
たとえばある年の7月初旬にやってきた80代女性は「毎日、午前中は37度台前半、午後は38度前後の熱が1カ月間も続いている」とのことだった。
始まりは6月7日、熱っぽい感じがして体温を測定したところ37.5度。特に寒気やのどの痛み等の症状はなかったが、大事を取り、身体を冷やさないようにして早寝したが、翌日も、その翌日も、体温は下がらない。近所のクリニックを受診すると、「CRP(体内の炎症を示す数値)の数値も含めて特に異常はないが、念のため、抗菌薬を出しておきましょう」と言われ、真面目に服薬するも、熱は依然下がらず、生坂氏の総合診療科を紹介された。
「まるで隠れ熱中症」
「女性は毎日の発熱に加え、1週間前からは寝汗をかくようになった。ただし、食欲低下や体重減少はなし。常用している薬はなく、診察時の体温は36.9度。血圧は154/84で高め。血液・生化学検査は異状なし。過去に子宮癌を摘出しているので、骨盤転移の可能性を疑い、骨盤CTを撮りましたが異常はありませんでした」
生坂氏の診断はうつ熱。
決め手は問診で「クーラーは体に悪い贅沢品なので、外出時はすべての電化製品のコンセントプラグを抜くことにしています」と言っていたことだった。気象データを調べてみると、発熱が出現した6月7日には、千葉県の最高気温は28度まで急上昇しており、以降徐々に真夏日(30度以上)に移行していた。
環境温上昇による『うつ熱』と考えた生坂氏は、クーラーの適切使用など室内環境を整えるよう指導。発熱・寝汗ともに症状は消失したという。
「まるで隠れ熱中症ですね。症状は発熱だけですが、1カ月間続くこともありますし、意識障害が出現し、重症の熱中症になることもあるので、早期に発見し、治療することが重要です」
暑さに体を慣らす「暑熱順化」の必要性
では、うつ熱も含めて、熱中症を防ぐにはどうしたらいいのだろう。夏が前倒しでやって来て、しかも気温が毎日のように乱高下する状況では、従来通りの対策だけでは心細い。
「基本はやはり、小まめな水分補給と室温調節です。その上で大切なのは、徐々に暑さに体を慣らすようにすること、つまり『暑熱順化』ですね。具体的には、昼の12~14時ごろの暑い時間帯を避けて外出し、高温環境に身をさらした後、スーパーやカフェに寄り道して、体温を下げて帰宅することを、通常は5月ぐらいから進めるようアドバイスしているのですが……」(生坂氏)
異常気象の昨今は、4月からいきなり真夏日、猛暑日が来てもおかしくない。となると炎天下を外して外出したつもりでも、暑さに慣れる前に、あまりの暑さに行き倒れてしまう可能性はゼロではない。