編み物☆堀ノ内:あみもの☆ほりのうち/1967年生まれ。グラフィックデザイナーとして活動後、2012年から「編み物☆堀ノ内」名義でニット作家としてセーターやバッグを製作。別名、狂い編みサンダーニット(写真:本人提供)
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 色やデザインに「自分らしさ」を出せることから、改めて注目を集めている編み物。個性的なニット作家も活躍している。AERA 2025年4月21日号より。

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 編み物☆堀ノ内さん(57)は、YMOから寅さんまで幅広い人物写真をもとにしたセーターを家庭用編み機でハンドメイドしている。活動を始めたのは12年。グラフィックデザイナーとして雑誌やCD、会社案内などのデザインをしてきたが、媒体が減ってきた40代後半、新しい収入源を探していた。

「刺繍で絵を描くように、ニットで絵を描いたら面白いんじゃないかという発想でした」

精巧なドット画の製図

 作家の故・橋本治さんは精巧なデザインのセーターを作っていた。時間がかかるし、到底できないと思っていたが、「やるならこういうことをやらないとだめだ」と覚悟。細かな製図を作る心得はあるので、約1年の助走期間を経て、手編みを始めた。

 人の顔はちょっとバランスが変わると、似なくなる。精巧なドット画の製図をイラストレーターで作り、思い通りの色のウール100%の毛糸を集める。1段で何色も毛糸を変えていく。

「最初に編んだブルース・リーのセーターは1カ月もかかり、こんなに時間がかかるのかと衝撃でした。あまりに面倒で袖まで作れず、ベストにしました」

 完成した写真をSNSにアップしたら、想像以上に評判だった。今は家庭用編み機で1着1週間かけて作る。

「時間をかけて編んでいくのは、大きいキャンバスに少しずつ絵を描いていく感覚に近いです」

 もちろん、ニット工場で作れば、目が細かく正確なジャカード編みが作れる。生地がしっかりして、いいものができる。

「でも、私が柄物を編むインターシャ編みはより目がきれいに出て、色と色の境界がくっきりしてきれいです。技法が複雑なので、基本的に量産が難しいのです。複雑なことはハンドメイドじゃないとできない。それが自分の良さで、こだわりだと思います」

 編み物は手間がかかる。だからこそ、可能性がある。(編集部・井上有紀子)

AERA 2025年4月21日号より抜粋

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