セクハラ、パワハラ、モラハラ……。ハラスメントについての社会の意識は高まったかに見えるが、いまだに深刻な性被害の報告が続いている(写真:写真映像部・松永卓也)
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 セクハラや性被害の問題が様々な業界で起きている。被害者が辛い記憶を口外できず、意を決して話した場合でも相談窓口が適切な対応を取らず「二次被害」となることも。AERA 2025年4月21日号より。

【図表を見る】過去3年間に職場でセクハラを受けたと回答した割合

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 育休から復職して、しばらくした後だった。

 学習参考書を出版する会社で働いていた40代前半の女性は数年前、会社の社長から「今後の仕事のことでざっくばらんに話したい」と夕食に誘われた。それなりに楽しく過ごし、帰ろうとしたら「あなたのためにもう一軒予約してある」と半ば強引に、別の店に連れていかれた。

 すると、その店の個室で、いきなりキスをされ、舌も挿入された。何が起きているのか分からなくて、体が硬直した。歯を食いしばり、それ以上の挿入を阻止するのが精一杯だった。

 その後どうやって帰宅したのか、記憶がない。次に覚えているのは、自宅のトイレで吐き、洗面所でひたすら口の中をすすいだこと。大好きな夫に言えない秘密を抱えてしまったことがつらくて苦しくて悔しくて、泣いた。「何事もなかったことにしたくて、記憶に蓋をしようとしました」

 だが、通勤する電車でたびたび脳貧血を起こすようになった。口を切り落としてしまいたい衝動に駆られもした。

 社長はワンマン気質で、事件を公にすれば自分が退職しなければならなくなると思い、我慢した。しかし限界がきた。

 社内のハラスメント窓口に相談すると、すぐ管理部門の役員にまで上げてくれた。だが、この役員は女性の許可なく社長に事実確認を行い、複数回の面談が持たれた。

 社長は事実を認め謝罪したが、役員からは「まさかとは思うけど、お金が欲しいわけじゃないよね?」と心ない言葉を投げかけられた。女性は、「はらわたが煮えくりかえりました」と振り返る。

 社会規範に照らして適切に対処し、社内風土も改善してください──。そう伝えたが、社長には何の処分もなく、女性は関わっていたプロジェクトから全て外された。

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