売り手市場で、働き方の多様化も。退職代行サービスの需要は増えそうだ(写真/Getty Images)
売り手市場で、働き方の多様化も。退職代行サービスの需要は増えそうだ(写真/Getty Images)

 レアケースではあるが、うその退職理由を伝えてくる人もいるという。

「利用者が会社で悪事を働いていて、逃げるために依頼してくる人もいましたね。申し込み時点ではもっともらしい退職理由だったんですが、いざ会社に連絡すると『〇〇さんは社内横領の件で調査中で、懲戒処分が検討されているので応じられません』と。この方はサービス利用規約に則り契約解除になりました」

 ほかにも、自身がハラスメント加害者であることを隠して退職代行を申し込んできた人もいるという。

「やましいことがある方はだいたい『退職がうまくいけばもうけもの』といった姿勢で申し込みされていて、指摘されると引き下がるのですが、時折『言い忘れていただけです』と白を切る方もいます。ただ、サービスの利用規約に違反されているので、退職の確定のみ対応し、その他の内容についてはご自身で対応いただくようにお伝えしました。退職理由の真偽は申し込み時点では判別できないのが難しいところではあります」

100回以上利用された会社も

 谷本さんによれば、こうしたケースは「全体の3%くらい」で、労働者側の問題よりも、むしろブラック企業の多さに辟易するという。

「これまでに依頼があった勤め先全体の2割ほどが、複数の依頼者から退職を申し出られていて、20回以上依頼があった会社は40社を超えています。極端な例で言えば、115回も退職代行を利用された会社もあります」

 退職確定後に「〇〇は退職していない」と言い張り、書類をまったく送ってこずに依頼者の保険が切り替えられないというケースもあった。

「労務関係や総務関係が機能しておらず、依頼者に嫌がらせをする会社は一定数あります。そういう場合は年金事務所に掛け合うなど行政機関に対応をお願いするようにしています」

 今は転職が当たり前の時代。さらに売り手市場ということもある。働き方は多様化し、退職代行サービス利用者は年々増え続ける。その需要を実感している。

「退職は労働者として当然の権利ですし、労働者と会社双方の風紀がよくなればいいという思いでサービスを提供しています」

 トンデモな理由での利用は論外。フェアな退職を心がけ、気持ちよく働ける社会や労働環境を目指したい。

(AERA編集部・秦 正理)

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