3月31日の第三者委員会が調査報告書を発表する前に、フジとFMHの役員人事が発表されたのは「脱・日枝」の既成事実を図る狙いがあったとみられる

代表の肩書だけは…

 経営諮問委員会はそれまで、役員報酬や取締役の指名を取締役会に助言する建前になってはいたものの、実態は日枝が取締役候補者を諮問委員会に提案し、各委員が質疑した上で取締役会に上程する、という形だけのものだった。そこから日枝を放逐したということは、彼の人事権を剥奪した、ということである。

「第三者委員会の報告書が発表される3月31日まで我々は何もできない、そんなことでいいのか。それで取締役候補を決める経営諮問委員会のメンバーを交代しました」。フジの清水社長は31日の記者会見で、そう言及した。日枝の影響力をそいだうえで、3月27日、問題発覚時の常勤役員を全員交代させる大幅な人事刷新を断行した。

 清水は狙いをこう語る。「2月27日で経営諮問委員会を刷新し、その次の取締役会の3月27日で役員を大幅に入れ替え、最短のところでフジの経営体制を変えることができました」。このとき日枝はついに取締役相談役を追われた。

「これも一方的な見切り発車でした。悲劇的なのですが、本人はまだやる気満々なんですよ。せめて『フジサンケイグループ代表』の肩書だけは手放したくなかった。それも追われたね」。そう先の首脳は解説する。フジサンケイグループ代表は法人格のある組織の肩書ではないが、象徴的なトップという含意がある。そこに居座り続けられれば、グループの「天皇」という象徴でいられた。

クーデターから33年

 代わって今回の人事で起用されたのは、9.11の米同時多発テロを報道した安田美智代、TVer社長の若生伸子ら。「執行役員クラスの人事も含めると、金光君と近い人間が起用されている印象を受ける」。OBからはそんな声があがる。遠藤龍之介(前副会長)に日枝に辞任を促させ、清水に記者会見をやらせる。社内では「金光さんは裏に隠れ過ぎだ」と言われている。

 それは静かに進んだ金光のクーデターだった。かつて“オーナー”家出身の鹿内宏明を追放するクーデターを立案した日枝は33年の歳月を経て、今度は自身が追われた。

 死刑執行人もまた死す、であった。(朝日新聞記者・大鹿靖明)

AERA 2025年4月14日号より抜粋

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