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 メンタル不調の治療というと多くの人は、精神科や心療内科を考えるでしょう。そのほかに漢方という選択肢もあり、30年超にわたり漢方診療をおこなう元慶應義塾大学教授・修琴堂大塚医院院長の渡辺賢治医師は、「中国の漢方医学書には1800年以上前からメンタル不調に漢方が使われていたと記載があります」と話します。

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 メンタル不調に対して漢方という選択肢もあるということを、より多くの人に知ってもらいたいと、渡辺医師は著書『メンタル漢方 体にやさしい心の治し方』(朝日新聞出版)を発刊しました。同書から抜粋してお届けします。

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 こころの不調を精神科や心療内科で診る場合、脳にアプローチする治療が基本となります。例えばうつ病は、セロトニンなど脳内の神経伝達物質が減るために無気力になったり、憂うつになったりすると考えられています。このため、治療はセロトニンの働きを増強する抗うつ薬が処方されます。

 一方、漢方には脳という概念がありません。「内経図(だいけいず)」といってからだの内臓を表した解剖図のようなものがあるのですが、脳は描かれていません。しかし1800年以上前に書かれた『傷寒論』や『金匱要略(きんきようりゃく)』などの処方集には、例えば次のようなメンタルの不調に関する記述があります。

◦奔豚気病(ほんとんきびょう)

突然動悸がして、発作が起きると死にたくなったり恐怖を感じたりする症状で、今でいうパニック障害のような症状です。処方として奔豚湯(ほんとんとう)や桂枝甘草湯(けいしかんぞうとう)などが記されています。

◦狐惑病(こわくびょう)

もうろうとして眠りたいのに目を閉じられない、起きられない、のどや陰部をむしばまれたような感覚があるといった症状で、甘草瀉心湯(かんぞうしゃしんとう)が効くと書かれています。

 そのほか、甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)が、婦人の悲傷(悲しくなって泣き出す)といった症状に効くこと、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)が、ストレスによってのどの中に炙った肉があるような感覚があるときに有効なことなどが記されています。

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