国内の自動車輸出入の拠点となっている横浜市の大黒ふ頭。関税25%となり、関係者に衝撃が走った

第2次世界大戦の契機

 貿易戦争が悲劇をもたらした例で最も有名な例は、フーヴァー政権下で実施された、1930年のスムート・ホーリー関税法である。

 前年の29年に大恐慌が始まり、米国は国内産業保護のために農作物など2万品目の輸入関税を平均50パーセント引き上げた。当初は農作物に限られたが、工業製品など幅広い輸入品に高関税が課せられることになった。それに対する報復措置として、多くの国が米国の商品に高い関税をかけたため、世界貿易が停滞し、恐慌をさらに深刻化させた。そして第2次世界大戦が勃発した。

 そんな歴史もあり、今回の関税政策に憤りの声は強い。

 3大投資家の一人ジム・ロジャーズ氏は、「貿易戦争が良い結果をもたらしたことはないという史実を、今まで誰もトランプに説明していないのか」と激しく批判している。

 一方、ゴールドマン・サックスのCEOを務めたロイド・ブランクファイン氏は、ウォールストリート・ジャーナルにトランプの関税政策について、こう語っている。

「これらの政策をマクロ的に見ると、そこには方法論がある。市場にとってのリスクは短期的な混乱だ。しかし、自動車の価格が今より数千ドル高くなっても、モノを作ることができ、自分たちが作ったものを買える労働力が備わるなら、米国はもっと良くなると思う」

 米国内でも賛否の分かれる今回の関税政策だが、日本経済に大打撃を与えることは間違いない。

 貿易統計によると、昨年の日本の自動車の対米輸出額は6兆円を超え、輸出額全体の約3割を占めている。関税の大幅な引き上げは、米国での販売減や利益減につながるだろうし、基幹産業の自動車の国内生産が落ち込めば、結果的に日本経済全体に悪影響が出る可能性もある。

 だからこそ、これまで日本は米側に、自動車関税の対象から日本を外すよう強く求めてきた。3月10日には武藤容治経済産業相が訪米し、ワシントンでラトニック商務長官らと面会。直接、適用除外を申し入れたばかりだった。(ジャーナリスト・大野和基)

【後編はこちら】トランプ氏が仕掛ける関税政策は成功しない? 経済学者「アメリカの貿易赤字は、24年よりも拡大」指摘のワケ

AERA 2025年4月7日号より抜粋

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