被害者を縛る「男とはこうあるべき」
被害者であるにもかかわらず、
「情けない」「恥ずかしくて誰にも言えなかった」「男だから家族は守らないといけない」
社長と面談した男性たちは、一様にそんな言葉を口にする。先の男性のように、兄弟や友人についての相談だと偽る人は他にもいたという。
社長は思う。
「被害者たちは、男とはこうあるべき、というたくましいタイプの人が目立ちます。日本では、『男とは~』という育て方をされたり、男らしさを求める風潮が根強くあって。だから、限界突破しているのに相談すらできず、耐え続けてしまうのだと感じています」
家では食事すら許されず
黙って、うんうんと話を聞くようなタイプの被害者も少なくない。理解をしようと努力をする性分だから、加害者側は「こいつには何をしてもいいんだ」とDVをエスカレートさせる。
前編の冒頭で登場した大手企業管理職の男性も、まさにそうだった。妻とひきこもりの息子からの暴力や抑圧に十数年耐え続けた。1日の小遣いは500円で、家では食事すら許されず痩せこけていた。
地獄絵図のような状況だったが、大きな一軒家の玄関に飾られていたのは、息子が小さかったころの家族写真。みんな、笑顔だった。
「家を建てたころは『家族で出発だね』なんて妻と話して、あのころは楽しかったんですよ」。そんな思い出を口にしたこともあった。
高収入で、一人で十分に暮らしていける。いつでも逃げられるのに、その選択をしない。
半年後、あなたは生きていますか?
「『男は家族を守らないといけない』という考えに支配されているようにも見えました。玄関に家族写真を飾っている家って、なかなかないですよね。あの男性は、自分の中でつくり上げた世間の目に対して、『家族を守っている自分』を演じたかったのかもしれません」(社長)
――このまま耐えたとして、半年や1年後、あなたはちゃんと生きてる?
――いつか、うっかりやり返したら、被害者のあなたが加害者になるんだよ。それでもいいの?
かたくなだった男性たちも、被害当事者の社長の言葉だからこそ、心のフタが開くのだろう。
面談が終わると、声を上げて大泣きしたり、放心状態になったり。