自由がさみしいと感じる
夜逃げに成功してしばらくは、心にぽっかり穴が開いたような、喪失感に襲われる人も少なくない。
「私もそうでしたが、自由がさみしいと感じるんですよ。共依存(=あの人のそばには私がいないとダメだ、理解できるのは自分だけだ、などと存在意義を見いだしてしまう心理状態)だったということなのかもしれませんが、自分の大半を占めていたものがなくなって、燃え尽きたような感じで。引っ越し後に、さみしいんだって電話してくる男性は少なくありません」
それでも、DVから避難した男性たちは、新たな日常に幸せを感じられるようになる。おなかいっぱいご飯を食べたり、安心して眠れたり、自由にお金を使ったり……、当たり前が当たり前でなかった彼らにとっては、ささやかだけどそれが幸せだ。
「再会したらだいぶ太ってて、一瞬誰だかわからなかった男性もいました(笑)。でも、その姿を見られて良かった」(社長)
DVに耐え続けている人たちへ
声を上げられない男性の被害者たち。今も、DVに耐え続けてしまっている被害者たちが、水面下にいるはずだ。
社長は、男性が言い出しやすくなるように、男性のDV被害者がいるという事実を社会がもっと知るべきだと強く訴える。「そんなわけがない」は勝手な思い込みでしかない。
元夫に鼻をつぶされたときの傷が、今もうっすら残る社長。毎日ボコボコにされ、「このままでは殺される」と、ぼろ雑巾の状態で逃げ出した。その彼女が、取材中に被害者への思いとして、こんな言葉を何度も口にした。
あなたは、何のために生まれてきたの――?
そして、被害者たちへの思いをこう話す。
「情けないとか恥ずかしいなんて、誰も思わないということを知ってほしい。私が耐え続けてしまった当事者だからこそ、『がまんするな。がまんなんてしなくていいんだよ』って伝えたいです。助けてくれる人は必ずいますから、とにかく声を上げてほしい」
(ライター・國府田英之)