男性のDV被害者が増えている。妻など家族から暴力を受けるケースが少なくない(写真はイメージ/gettyimages)
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 男性のDV被害は、妻などから暴力を受けている。その引っ越しを手伝う「夜逃げ屋TSC」の女性社長は、逃げられる状況にあるのに、暴力と抑圧に頑張って耐え続けてしまった男性たちの姿を目の当たりにしてきた。なぜ、被害者たちは自分から「動けなかった」のか。

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妻からの暴力を受ける兄を救いたい

 数年前、夜逃げ屋TSCにやってきて、社長と面談した50代の男性がいた。

「兄が長い間、(兄の)妻から暴力を受け続けていて、兄を助けたい。救う方法を教えてほしい」とのことだった。

 だが、そもそも、男性の顔には精気がない。頬もこけている。さらに、やり取りを続けると、話のつじつまが合わなくなる場面が増えてきた。男性と兄との関係性や、兄は直接来る気はないのか、などと話を聞くと、言葉が詰まったりする。

 社長自身が、元夫から凄惨なDVを受け続けた被害当事者だ。だからこそ、察した。

「被害者はあなたなんだよね? なら、ちゃんと話をして。私も被害者だから、当事者同士で話そうよ」

男なのに暴力をふるわれるなんて

 社長のストレートな言葉に事実を認めた男性は、長年の妻からの暴力と抑圧を打ち明けた後、こんな言葉を口にした。

「僕、情けないですよね」

「男なのに暴力をふるわれるなんて恥ずかしい話だと思うかもしれませんが、それでもやっぱり家族は家族だし……。昔は幸せだったんですよ」

 どんな夫婦も、少なくとも結婚当時は幸せだったはずだ。最初から加害行為を受けていれば、結婚には至らないだろう。配偶者が加害者になった原因がどこかにあるのかもしれないが、もはや、それを考える段階にはない。

泣いていい、情けなくなんかない

 社長は、こう語りかけた。

「でも、もう壊れちゃってるよね? もとには戻れないって、あなたもわかってるんだよね?」

「泣いていいんだよ。何も情けなくなんかない。こんなに頑張ってきて、表彰状ものだよ」

 男性は、机に突っ伏して、声を上げて泣き始めた。

 夜逃げ屋にやってくる男性の被害者たちは、限界が訪れたからやってくるのではない。

 とっくに限界突破した状況で、それでも耐え続けた人ばかり。家族などからの説得を受け、やっと腰を上げた形だ。

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