男性がDV被害を受けるケースは少なくない(写真はイメージ/gettyimages)
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 DV被害者といえば女性を思い浮かべがちだが、男性が被害を受ける事例も少なくない。DV被害者らに接する「夜逃げ屋TSC」の女性社長に話を聞くと、家族を守ろうとする男性が、その家族から暴力を受け抑圧され続ける、想像を絶する現実があった。

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高学歴で高収入、加害者は妻と息子

 首都圏に住む50代の男性。大手企業の管理職の彼は、高学歴で高収入。購入した大きな一軒家に妻と30歳近い息子と暮らしていた。

 玄関には息子が小さいころの家族の写真が飾ってある。

 男性は10年以上、DVに苦しめられ続けてきた。加害者は、写真では笑顔の妻と息子だ。

 妻はことあるごとに男性を怒鳴りつけて、暴力をふるった。男性の財布は妻と息子が握り、好き勝手にものを買う。家の中は通販で買った商品の段ボールだらけだった。

 息子はいわゆる「ひきこもり」で仕事をしたことはない。「息子がこうなったのはお前のせいだ」となじる妻に、「俺がおかしいのはお前のせいだ」とキレる息子。

食事もとれず痩せこけて…

 男性の小遣いは1日たったの500円で、家では食事は出ないし、勝手に何かを食べることもできない。水筒に水を入れて職場に持っていこうとするだけで、妻が怒り狂う。男性はろくに食事もとれずに痩せこけていた。

 生活は過酷だった。仕事から帰宅すると「今日は何をしていたのか」と2人に詰問される。長い日は翌朝5時まで説教が続く。ろくに睡眠もとれず、心身共にボロボロだった。高収入で、一人で十分に暮らしていける。いつでも逃げられるのに、その選択をしない。

「もう、自分のことだけを考えろよ」

 家庭環境がおかしいことに気付いていた職場の上司たちが男性を必死に説得し、「夜逃げ屋」の存在を知って、利用するようにサポートした。

妻と息子のいる家から「夜逃げ」

「家を建てたころは『家族で出発だね』なんて妻と話して、あのころは楽しかったんですよ」。そんな思い出を口にしたこともあった。

 面談を重ねた末、妻と息子のいる家から「夜逃げ」することを決めた。家を出る時、妻と息子からは感謝の一言もなく、男性や社長らはののしられ続けた。

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