『バルセロナで豆腐屋になった 定年後の「一身二生」奮闘記』(1056円〈税込み〉/岩波新書)元朝日新聞の記者が定年後、バルセロナで豆腐店を開業した。豆腐店での修業の日々、異国での苦労、思わぬ人々との出会いと交流、ヨーロッパから見た日本の姿──著者はジャーナリストならではの洞察力で、身に起こる出来事を見て、考える。シニアのみならず、「冒険に挑戦したい」と考える、あらゆる世代の人を勇気づける本だ

 暮らし始めてからは日本とバルセロナの違い、その背景についての興味深い考察も書かれる。文化論であり、盛りこまれる情報の過不足のなさと臨場感に清水さんが「ニュースステーション」でコメンテーターも務めた名物記者だったことを思い出した。

「始めるときには失敗する可能性もあったわけです。それでもやってみようと思ったのは『一身にして二生を経る』という言葉を知ったからです。井上ひさしさんが伊能忠敬を主人公にした『四千万歩の男』の前書きで紹介した言葉ですが、忠敬も49歳で引退してから地図を作るための測量を始めているんですよね」

 前半生と後半生で違う人生を生きた忠敬──高齢化社会となった現代だからこそ「一身二生」の生きかたが輝く。

「本ではお金のことや事務的なことも具体的に書きました。これから海外で仕事をしようと思う人のガイドブックにしたいと思ったからです」

 本書には清水さんが遭遇したトラブルと解決法、EUのプラスチック規制など、実践的な事柄についても書かれている。日本の常識が世界の常識ではないのだ。

 清水さんの計画を聞いたとき、長女は「豆腐アドベンチャー」と命名したそうだ。様々な困難を乗り越え、仲間と出会い、前へと進んでゆく清水さんの生き方は、まさに「豆腐をめぐる冒険」だ。

「豆腐屋は10年間やって、若い方に事業継承しました。苦労もありましたが、冒険したからこそ得た多くの友人、出会いがあり、それが宝物になっています」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2025年3月31日号

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