『オープン・アーキテクチャー』ダニエル・ユメール~ジェリー・バーガンジ~J.F.ジェニー・クラーク
『オープン・アーキテクチャー』ダニエル・ユメール~ジェリー・バーガンジ~J.F.ジェニー・クラーク

 ユーロ・ジャズの重鎮、ダニエル・ユメールの初来日は1970年、大阪万博で威容を誇ったヨーロピアン・ジャズ・オールスターズの一員だった。折しも、渡欧したフィル・ウッズ(アルトサックス)が1968年に旗揚げした「フィル・ウッズ&ヨーロピアン・リズム・マシーン」に在籍中で『フィル・ウッズとヨーロピアン・リズム・マシーン』も国内で発売されていたが、万博で注目されたという記憶はない。タイムラグではないか、同作でユメールが一気に知名度をあげたのはしばらく経ってからだったように記憶する。ジャズが沈滞するなか、ウッズの燃えさかるアルトとユメールの縦横無尽のドラミングに多くが溜飲を下げたにちがいない。その後はヨーロッパのトップ・ドラマーとして活躍、再来日したのは押しも押されもせぬ大御所になってからだ。ヨアヒム・キューン・トリオ(1989年、90年)、ミシェル・ポルタル・カルテット(90年)で来日している。

 推薦盤は5度目の来日となる1992年に移転・新装になった名門「新宿ピットイン」で録られたピアノレス・トリオ作だ。ポスト・コルトレーン派の雄、ジェリー・バーガンジ(テナーサックス)との共演作には自身のカルテット作『エッジス』(Label Bleu/1991)、アーサ・キット(ヴォーカル)の『シンキング・ジャズ』(ITM/1991)、この2カ月前に録ったばかりのバーガンジのクインテット作『ピーク・ア・ブー』(Label Bleu)がある。ユメールと同じくヨーロッパのファーストコールだった盟友、ジャン=フランソワ・ジェニー=クラーク(ベース)とは1974年からジェニー=クラークが早世する98年まで幾度となく共演を重ねた。録音が残るだけで自身やキューンの諸作を筆頭に24作あり、推薦盤は18作目にあたる。なお、三者の共演作は推薦盤が最初で最後の一作となった。実際にもそうだったのかはさておき、一期一会そのものの濃密な演奏が繰り広げられる。

 バーガンジのモーダル・ブルース《ゾニアン・モード》で幕開け。開口一番、先導するユメールのドガシャンドガシャンに「あれっ」となる。いつになく重く間合いはルーズ、これほどエルヴィン流のユメールを知らない。バーガンジが屈折したテーマからソロに。前述『ピーク・ア・ブー』でも取り上げているがこちらが断然いい。これぞバーガンジ、男くさくドスの効いた歌心で凄みすら漂わす。ジェニー=クラークのソロ、バーガンジとユメールのコーラス交換と続き、後テーマで終える。傑作ライヴを確信させる幕開けだ。

 スタンダードの《イッツ・イージー・トゥ・リメンバー》はゆったりしたバラードで。いきなりバーガンジがテーマを切り出しソロに。無骨な男の未練を吐露して遺憾がない。ジェニー=クラークのソロを経て再びバーガンジ、4分もの創造的カデンツァが圧巻だ。

 ユメールの《ジッパー・ティーザーズ》は猪突猛進系。ユメールのソロがひとしきり、バーガンジがトリッキーなテーマのあと一心不乱に猛ダッシュ、ユメールの煽りが凄い。ジェニー=クラーク、家財道具総動員のユメール、後テーマと続く。この夜一番の激演。

 ユメールの《グラヴェンシュタイン》はミディアム・エレジー。ジェニー=クラークのソロに続くバーガンジは哀切感に満ちたテーマと畳みかけるようなインプロを交錯させてエモーショナルに歌い上げる。8分弱と短い演奏ではないがラストまで引き付けて立派。

 三者作の《フリー・エンタープライズ》はフリー風ストレート。インタープレイのあとバーガンジは端からインプロ、中盤からテンポはミディアムからファストに切り替わり、そのまま吹き通す。俄か仕立てのせいか消化不良気味、悪くはないが取り付く島がない。

 スタンダードの《スプリング・イズ・ヒア》はミディアム・スインガーで。リズム隊のリフが先導、バーガンジはぶっきらぼうなテーマといい奔放なソロといいロリンズ風だ。ジェニー=クラークもウィルバー・ウェア風に響く。ロリンズのピアノレス・トリオ名盤『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』に捧げた演奏に思える。理屈抜きに楽しめる演奏だ。

 それにしても、この夜のユメールは終始エルヴィンを彷彿させる。とくにオープナーとクローザーは。場所柄、エルヴィンが憑依したわけではなかろう。ピアノレス・トリオのドラミングを切り開いたエルヴィンへの敬意と見たい。そう滅多にない聴き物だと思う。バーガンジが絶好調、一時期は盛んにわけのわからなさを発揮して困らされたものだが、推薦盤が見直す切っ掛けになった。幸い、2011年に再発されていて入手難ではない。

【収録曲】
Open Architecture/Daniel Humair-Jerry Bergonzi-J.F. Jenny-Clark

1. Zonian Mode 2. It's Easy to Remember 3. Zipper Teaseuse 4. Gravenstein 5. Free Enterprise 6. Spring Is Here

Daniel Humair (ds), Jerry Bergonzi (ts), Jean-Francois Jenny-Clark (b).

Recorded at Shinjuku Pit Inn, Tokyo, on December 9, 1992.

【リリース情報】
1993 CD Open Architecture/Daniel Humair-Jerry Bergonzi-J.F. Jenny-Clark (Jp-Ninty One)
2011 CD Open Architecture/Daniel Humair-Jerry Bergonzi-J.F. Jenny-Clark (Jp-Studio Songs)

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。