今田と東野の電気イスは
3月12日放送の『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で行われた「電気イスゲーム」という企画でも、その種の問題が起こっていた。今田耕司と東野幸治という昔から付き合いの深いベテラン芸人の2人が、相手がどの椅子に電流を仕掛けたのかを予想して、それを回避し合いながら争う心理戦に挑んでいた。
このゲームの基本的な流れは、1~12の数字の書かれた椅子の中に一つだけある電流が仕掛けられた椅子がどれなのかを予想して、それを避けながらほかの椅子に座ってポイントを獲得していく、というもの。電気が流れていない椅子に座るたびに、その椅子が外されていき、お互いが電気椅子に当たる確率はどんどん上がっていくことになる。
この企画の面白さのカギは、電気椅子に座ってしまった瞬間のリアクションにあることは明白だ。どちらかの芸人が予想を外して電気が流れる椅子に座ってしまい、苦痛に身悶えするところを誰もが心待ちにしていた。
ところが、真剣に挑んだ結果、2人は最後まで電気椅子を回避し続けて、どちらも電気を食らうことなく勝負が終わってしまった。純粋な心理戦としては見ごたえがあって面白かったのだが、体を張って笑いを取ることを求められている芸人という立場を考えると、最悪の結果となった。
浜田雅功は「今田と東野呼べ!」
VTRを見ていた浜田雅功は、長年一緒に仕事をしてきた後輩芸人である今田と東野がこのような不甲斐ない姿を見せたことで怒りをあらわにした。「とりあえず、今田と東野呼べ!」と叫び、カメラ目線で「『ごっつ』のときを思い出せ、コラ!」と恫喝した。
もちろん、芸人同士が電気イスゲームで戦って、どちらも電気を食らわずに終わるというのは、あってはならないことである。しかし、だからといってわざと電気を食らえばいいというものでもない。
このゲームのもう一つの見どころは、電気椅子の場所を推理し合う心理戦にある。そこではあくまでも本気で電気椅子を回避しようと動かなくてはいけない。わざと電気椅子が仕掛けられてそうなところに座るようなことがあれば、それはそれで見ごたえのないものになってしまう。
ドキュメンタリー性のある企画の中で、バラエティー的なお約束に従うのは簡単なようで難しい。いわば、電気イスゲームにおいては、出場する芸人は電気椅子を必死で避けようとしながら、ゲームが終わるまでに電気椅子に座らなければいけない。バラエティータレントの本分は、この矛盾を生きることにある。
今田・東野というバラエティー史上最強クラスの能力を備えた2人ですら、こういう結果を招いてしまうこともあるのだから、お約束というのは一筋縄ではいかないものだ。テレビを見て楽しむだけの無責任な一視聴者としては「それはそれで面白かった」と思ったわけだが。(お笑い評論家・ラリー遠田)

