
観光まちづくりの装置
鉄道の価値は採算面だけで測れない。いつでも誰でも乗れ、高齢になっても使える。こうした選択肢がある状態を「オプション価値」と言い、鉄道の場合は特に強い。しかも、脱炭素社会に向け、CO2(二酸化炭素)の排出量が少ない鉄道が果たすべき役割は大きい。
公共交通に詳しい江戸川大学教授の大塚良治さんは、「鉄道は街づくりや地方創生に重要な役割を果たす」と語る。
「国鉄時代に鉄道が廃止となった九州のある市では、観光客やインバウンド客を誘致することは難しいのが現状だと、市の観光担当者から聞きました。鉄道があれば観光客を誘致できるだけでなく、地域間交流の活性化により関係人口も獲得できます。これは車では難しい」
復活のキーワードは、「観光まちづくり」だ。
「鉄道を、観光とまちづくりの装置として位置づけることが大切です」
大塚さんが注目する鉄道の一つに、福井県内を走る第三セクターの「えちぜん鉄道」がある。「アテンダント」と呼ばれる女性乗務員が乗車し、地域の大きな力になっている。
前身の京福電気鉄道の2路線は、00年と01年の事故により全線運行停止となった。バスでの代行となったが道路が大渋滞となり、地域の交通や観光に大きな影響を与えた。地元住民の強い要望を受け02年に、第三セクターとして再出発を果たした。
ただ、福井県は自動車の世帯当たり普及台数が全国1位。沿線は高齢化も進み、ホームと電車の段差などをバリアフリーにするにもお金がかかる。そこで誕生したのが、アテンダントによるサービスだった。
現在、10代から40代まで12人。車内で切符を販売したり、高齢者など交通弱者の乗り降りを助けたり、観光客も案内する。当初アテンダントに懐疑的な意見もあったが、今ではえちぜん鉄道の「顔」として全国の鉄道ファンを魅了。福井県民にとっても観光客にとっても、えちぜん鉄道はなくてはならない存在となっている。
「回復が見込めない鉄道は、テーマパーク化するのも、一つの方法です」(大塚さん)
例えば、宮崎県の北西部、天孫降臨の神話の里・高千穂を走る「高千穂あまてらす鉄道」は、05年9月の台風14号で被災し、廃線になった高千穂鉄道を引き継ぎ、アトラクションとして観光鉄道車両「グランド・スーパーカート」を走らせている。
旧高千穂駅から高千穂鉄橋まで往復約5キロ。圧巻は、105メートルと日本一の高さを誇る高千穂鉄橋からの絶景だ。乗客は渓谷の風を受けながら、360度のパノラマを味わえる。料金は大人2千円と少し割高だが、乗車人数は右肩上がりに伸び昨年度は約11万人。今年度は12万人超えの見通しで、人気の観光スポットとなっている。「こうして、その地域に応じた運営方法を考え、鉄道を残していく枠組みを探っていくことが重要です」(大塚さん)
(編集部・野村昌二)
※AERA 2025年3月24日号より抜粋

