
オウム真理教問題の心理面での第一人者として、脱会信者のカウンセリングに努めてきた弁護士の滝本太郎氏(68)。地下鉄サリン事件から30年たった今、滝本氏の目には、「オウム真理教」の後継団体や信者たちの動向はどう映っているのか。事件が起きた1995年当時と今とでは、脱会者の「性質」が大きく異なるという。
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――滝本さんは多くのオウム脱会者のカウンセリングをしてきました。
地下鉄サリン事件が起きる前までは33人の信者の出家を止めました。事件後は脱会者が集まるための「カナリヤの会」を運営しています。そこを一度でも訪れてきた信者は200~300人といったところです。
――脱会者は今も訪ねてきますか?
ここ何年かは新しい人はまずいないですね。事件にショックを受けたり、改めて事実を確認したりして離れるのはせいぜい2005年頃までで、その後は組織内の人間関係が嫌になってやめる形が多い。つまり「脱会」といってもその性質がこの30年で大きく変わってきているんです。昔は、オウム裁判で地下鉄サリン事件などの内容を知り、被害者の声を聴き、自身で「真理の御魂 最聖 麻原彰晃尊師」について考え、「救済は間違いだったのでは」と思い至り、私に問い合わせてきた。先にオウムをやめた人や受刑して出てきた人と話し、オウムが現実にしてきたことを知ることで、「無間地獄」の恐怖と闘いながらも、麻原(松本智津夫元死刑囚)の精神的な束縛から離れることができた。
ところが、オウムが「アレフ」や「ひかりの輪」に移行してからの脱会者はそういう“突き詰めた後の脱会”はしていない。組織内で挫折し、現存するグルもいないから離れただけ。脱会後も「一人オウム」として悩ましい状態がしばらく続くのです。それでも家族の涙を見たり、現世で仕事をしたり、恋愛をしたりして現実感を取り戻し、本物の脱会となるという感じです。その後は、「鬱に入る」「麻原を憎む」「(麻原を)憎む自分を憎む」「どうにか乗り越える」というのは同じです。途中で自死してしまう人もいました。