日本に置くと安上がり

 近年の在日米軍駐留経費の負担総額は年間8千億円を超える巨費となり、基地で働く従業員の給料・ボーナスや基地内外の官舎・宿舎の光熱水料に充てられる。米軍にとって、米国に基地を置くよりも日本に置いた方が安上がりだ。

 基地内の業者がレンタカーを米兵に貸し出す際に高速道路の無料チケットを渡し、その料金を日本政府が立て替える。防衛省が中止を申し入れても米軍は「レジャーに行くのも日本防衛のうちだ」と主張して聞く耳を持たない。まさに日本は「米軍の天国」だ。

 日本政府は在日米軍の兵員数を把握しておらず、検疫もしない。日米安保条約にもとづく、日米地位協定によって米兵は入国審査を免除されているからだ。

 沖縄では20年7月、複数の米軍基地で新型コロナウイルスの感染者が出て、クラスター(感染集団)も発生した。当時の米国は感染者数、死者数とも世界一だった。政府は米国からの入国拒否を続けていたが、基地から米兵が自由に出入りしていたのだから効果は知れている。

 米兵には日本の国内法も適用されていない。沖縄で1995年に少女暴行事件があり、沖縄県警は基地に逃げ込んだ米兵3人の身柄引き渡しを求めたが、米軍は日米地位協定を盾に応じなかった。協定の改定を求めて上京した沖縄側に対し、当時の河野洋平外相は「議論が走りすぎている」とブレーキをかけた。

 運用の見直しという小手先の技でお茶を濁した結果、その後も沖縄では女性に対する暴行事件が後を絶たない。沖縄県が2018年、米軍基地を抱えるドイツ、イタリアに県職員を派遣して地位協定を調べたところ、両国には米軍基地への立ち入り権も国内法の適用もあることが判明した。

 すると、日本の外務省はウェブサイトに載せた「日米地位協定Q&A」で「米軍には日本の法律が適用されないのですか」との問いに「一般国際法上、(略)受入国の法令の執行や裁判権等から免除されると考えられています」と答えていたが、19年1月、「一般国際法上」を「一般に」とこっそり書き換えた。

 沖縄県の調査で説明が事実無根と判明した以上、ウソをつき通せなくなったと考えるほかない。これが日本という主権国家の実像である。政府が国民の方を向いているか否かで地位協定の中身は180度変わる。(防衛ジャーナリスト・半田滋)

半田滋(はんだ・しげる) 1955年(昭和30)年生まれ。防衛ジャーナリスト、獨協大学非常勤講師、法政大学兼任講師。海上保安庁政策アドバイザー。元東京新聞論説兼編集委員。92年より防衛庁(省)取材を担当。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞(写真/本人提供)

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