
住友館へも、寄ってほしい。70年万博の住友童話館は、住友グループへ入社するとは思ってもいなかったので、正直、覚えていない。今回は、建物をみれば分かるように「木」が主題だ。
グループ発祥の地は愛媛県の別子銅山。そこから派生して金融業も機械工業もできたし、住友化学も精錬で出る亜硫酸ガスによる公害を解決するために肥料へ加工したのが出発だ。伐採と煙害で山々の木々がなくなったので、住友総理事の伊庭貞剛氏が精錬所の島への移転と植林を進め、山は蘇った。
「木」を主題にして若い世代に伝える自利利他 公私一如
「木」を主題にしたのは、そうした歩みを忘れてはいけない、社会や地域のことを考えて自分たちだけのために事業をやってはいけない、という住友の家訓にある「自利利他 公私一如」の教えをかみしめるためだ。
もう一つ、日本の地方の文化や祭、食や工芸を知ってもらう機会にもしたい。実は能登半島の被災地へ視察にいったとき、夜の地球儀をみた。輪島塗で、5年かけて、つくられていた。直径1メートルの漆黒の球に輪島塗特有の沈金、蒔絵の金をちりばめている。
金は、宇宙から地球を観たときの灯りを示す。砂漠のところは暗く、都市部は明るくなる。この漆黒と金のバランスが心に響いて「万博に半年間、貸してほしい」と頼んだ。観れば、空からみた様子に「地球は一つなのだ」と実感できる。万博には、そういう活用法もある。
大阪製造所で知った「すべては現場から」の大切さ。それは2011年4月に社長に就いても、2019年に会長になっても大事にして、何度も現場を回ってきた。2021年6月に就任した経団連会長にとっては、財政や税制、年金や医療・介護などの在り方についての他の経済人との議論、政府の会議での発言も、「現場」と共通する。
同意を得るには、まず謙虚な気持ちで相手に接し、学んで、相手の意見をよく聴く。社会人初日に聴いた課長の言葉が水源を蓄え、それを実践した大阪製造所で流れ出した『源流』は、経団連会長の4年弱に「社会性の視座」という公的精神に富んだ口ぐせも生んだ。
経団連会長は、5月に退任する。でも、万博の会長は続く。開催する半年間に、どんな思いが言葉に出るか。『源流』からの流れは、まだまだ続く。(ジャーナリスト・街風隆雄)
※AERA 2025年3月24日号

