FSB第5局長に逮捕説も

 第5局は発足から20年を経過して、旧ソ連構成国に対してにらみを利かせる強力な部門に発展した。その局長に、プーチンが最も信頼していたと言われるFSB幹部、セルゲイ・ベセダ上級大将を任命した。

 しかしベセダ局長はその後、成果を挙げることができていなかったようだ。米外交誌『フォーリン・ポリシー』など米メディアにも寄稿するロシアの調査報道ジャーナリスト、アンドレイ・ソルダトフによると、2014年の「マイダン革命」の際、ウクライナやアブハジア、モルドバの現場で第5局の工作員が逮捕される失態が表面化、ベセダ局長は責任を問われたという。

 にもかかわらず、プーチン政権はウクライナ侵攻に向けた秘密工作で、第5局にウクライナの「政治インテリジェンス」収集と親露派野党勢力へのテコ入れという重要なミッションを与えた。第5局は2022年2月までに、1チーム10~20人の特殊工作員を約200人派遣したという情報もあった。

 しかし、明らかにロシアのゼレンスキー政権打倒工作は大失敗に終わり、第5局の起用は裏目に出た。この失敗でベセダ局長は逮捕され、スターリン時代から使われている警戒が厳重なレフォルトボ拘置所で拘束されたという情報もあった。工作員も約150人が解任されたと言われる。ウクライナ国内での秘密工作の任務は第5局からGRUに移されたとも伝えられた。

2014年当時は軍靴・ヘルメットもなかったウクライナ軍

 これに対して、ウクライナに対する援助を積み増してきた米国は並々ならぬ決意を示してきた。その裏には、初歩的な問題があった。2014年にロシア特殊部隊がクリミア半島を奪取し、親露派武装勢力が東部のドネツク、ルハンスク両州を部分的に占拠した際、ウクライナはなすすべもなく、ほとんど抵抗もできなかった。

 戦闘経験がなく、数十年間続いた政府の腐敗に加えて、医療器具や軍靴、ヘルメットといった装備さえ持っておらず、ひ弱さが暴露される結果となった。クリミア奪取の際の戦闘で、ウクライナ海軍は約70%の艦船を失った。

 このため、米国などは対ウクライナ軍事援助で、レーダー、武装ドローン、暗視ゴーグル、武装ボート、さらに「ジャベリン」対戦車ミサイル、「スティンガー」地対空ミサイルなどが提供された。

 さらに、7年以上続いたドンバス地方での親露派武装勢力との戦いで、士気が高まり、戦闘に堪える能力をつけたという。

次のページ ロシアとウクライナの戦力