
――アルバムの最後の曲、「バルーン・ポップ」はタイトル通り、ポップでカラフルな楽曲。
「バルーン・ポップ」に関しては、最初のフレーズがふと浮かんできて、お客さんがみんなで歌っているところが見えてきたんです。実際にライブで演奏したときも、イタリアでもフランスでも、「バルーン・ポップ」のメロディを歌いながら帰路についている方がいて。「思い浮かべていた情景そのままだ」ってすごくうれしくなりました。
――オーディエンスに楽しんでほしいというのは、大前提なんですね。
そうですね。私自身が楽しいと思うもの、いいと思うものに対して、同じ気持ちを持ってくれる人を探す旅だなって。またラーメンの話に戻るんですけど(笑)、ラーメンが好きな理由も同じなんですよ。ラーメン屋さんの大将が「絶対に美味い」という一杯を出して、お客さんはそれを黙って食べる。そうやって向き合ってる感じも音楽に似てるし、人によって好みがあって、「すごく好き」「好みじゃなかった」って分かれるところも。「自分が出しているものを“好き”って思ってくれる人はどこにいるんだろう?」って、西遊記みたいに旅をしている感じです(笑)。
――今は世界中に「上原ひろみの音楽を味わいたい」というファンが大勢待っているのでは?
どの街でも、毎回顔を見るお客さんがいますからね。しかもその人たちが、知り合いや友達を誘ってきてくれるんですよ。その知り合いの人たちが感動していると、(常連のファンが)「どう、すごいだろ」と自慢げにしているのがわかって。それも「あのラーメン屋、美味いよ」って勧めている人と同じじゃないかなって思います(笑)。
(取材・文/森 朋之)

上原ひろみ/1979年、静岡県浜松市生まれ。6歳よりピアノを始め、同時にヤマハ音楽教室で作曲を学ぶ。17歳の時にチック・コリアと共演。1999年にボストンのバークリー音楽大学に入学。在学中にジャズの名門テラークと契約し、2003年にアルバム『Another Mind』で世界デビュー。2011年に参加アルバムが第53回グラミー賞ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバムを受賞。2016年、アルバム『SPARK』が全米ジャズ・チャート1位を獲得した。2021年7月に「東京2020オリンピック開会式」に出演。2023年2月劇場公開された映画「BLUE GIANT」では音楽監督を務め、第47回日本アカデミー賞において「最優秀音楽賞」を受賞するなど国内外で幅広く活躍している。2025年4月4日にHiromi’s Sonicwonder名義の2作目『OUT THERE』をリリースした。