2003年のデビュー以来、20年以上にわたって世界的な活躍を続けているジャズピアニストの上原ひろみさん(撮影/写真映像部・和仁貢介)

――バンドとしての魅力がさらに発揮されたアルバムなんですね。1曲目の「XYZ」は、上原さんのデビュー作『アナザー・マインド』(2003年)の収録曲です。

「XYZ」は、これまでのプロジェクトやバンドでも何度も演奏してきました。2016年までやっていたトリオ(HIROMI THE TRIO PROJECT featuring Anthony Jackson & Simon Phillips)でもライブではずっとやっていて。デビューアルバムの1曲目ということもあり、自己紹介の曲でもあるので、私自身もこの曲をときどき再訪したくなるんですよね。一緒に演奏するミュージシャンによってまったく違うサウンドになるのが面白いし、「XYZ」の多面性をいつも楽しんでいます。

「この1曲だけで燃え尽きるような演奏をしよう」と作られた曲

――「XYZ」は上原さんの原点でもある、と。当時はどんなイメージで作曲されたのでしょうか?

「ライブの1曲目に演奏する」ということを考えて作りました。デビュー当初は、私がどういう演奏をするのか、どんな音楽をやる人なのかわらかないなかでステージに出ていたので、ぱっと見の印象を180度変えるような曲で勝負したくて。当時は20代前半でしたし、特にアジア人は若く見られることが多かったんです。飛行機で「これからコンサートなんです」と隣の人に話したりすると、「Child prodigy?(神童)」みたいに言われて、「いえ、24歳です」みたいなこともあって(笑)。海外のフェスティバルなどに出ても「子どもが出てきた」というザワザワすることがあったので、「1曲目が勝負だ」と。この1曲だけで燃え尽きるような演奏をしようと「XYZ」という曲目にしたんです。

20代のころは海外のフェスティバルなどに出ても「子どもが出てきた」と言われることもあったという(撮影/写真映像部・和仁貢介)

――衝撃や驚きを与える目的もあったと。今は世界中どこにいっても、“上原ひろみ”の名前は知られています。当時とはまったく状況が違いますよね。

 また違うハードルがありますね。デビューした頃はまったく期待されていないなかで演奏することが多かったですが、今は演奏スタイルも浸透していますし、私のライブに初めて来る方であっても、既に動画で見ていたりすると思うんですよ。期待値が高まっているなかで、「絶対にそれを超えてやる」という意味での「XYZ」は今もあります。

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