インフレ税は「見えない増税」ともいわれる(撮影/写真映像部 佐藤創紀)
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 収入が増えず、物価上昇が続いている。インフレが定着する中で家計から企業へ、企業から政府へと所得の移転が進んでいる。家計から見れば、可処分所得が減り、その一部が政府債務の返済に充てられる構図だ。「見えない増税」ともいえる「インフレ税」の実態に迫った。AERA 2025年3月17日号より。

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 インフレ税による財政再建については様々な見方がある。

「純債務残高の名目GDP比率はインフレの分だけ分母のGDPがかさ上げされますから、確かに見かけ上の財政状況は改善されています。しかし、そのことのみをもって財政再建が進んでいると捉えるのは早計です」

 こう唱えるのは、日本総合研究所の河村小百合主席研究員だ。

 財政運営の継続性を左右するのは、新規と借り換え分の国債発行を続けられるかどうか、だと河村さんは強調する。いま懸念されているのは、インフレで金利が上昇して国債の利払い費が増えると、財政が圧迫されて市場の信頼を失い、国債の買い手がつかなくなりかねない事態だ。

 財務省によると、普通国債残高は24年度末に1104兆円に上ると見込まれている。ただ日本の場合、現状ではこれを十分カバーできる2179兆円もの国内金融資産を保有している。これは何を意味するのか。

過去には預金封鎖も

「万一、国の財政運営が行き詰まっても、09年以降のギリシャの財政危機の時のようにIMF(国際通貨基金)の融資をすぐに受ける流れになるとは考えられません。まずは国内にある資金を充当する形で既に発行した国債の満期到来分の元本償還のめどを立てる『大規模な国内債務調整』を断行せざるを得なくなるでしょう」(河村さん)

 日本人は「大規模な国内債務調整」を第2次大戦の敗戦時に経験している。このとき政府は預金封鎖や切り捨て、家計が保有する金融資産や不動産を召し上げる財産税、戦時補償特別措置法といった政策を、施行時期をずらして断行した。

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