
一方、インフレで金利が上昇して国債の利払い費が増えても、税収も増えるため財政運営は問題ないとの見方もある。「インフレ税」による財政再建説だ。これについて河村さんは「逆進的で公平な負担とは到底言えないそのシナリオが仮に実現した場合、問題の解決ではなく回避」だと切り捨てる。
河村さんは23年度の決算ベースの税収額をもとに、4パターンのシナリオで税収がどの程度伸びるのか試算した。それによると、33年度の税収は「デフレ逆戻りシナリオ」では約76兆円止まりなのに対し、「高インフレシナリオ」(日銀が高インフレ進行を抑え切れなくなるケースとして5%のインフレを想定)では約123兆円に達する。税収がこれだけ高い伸びを示せば、国債の利払い費の増加分もカバーできるのでは、との印象もぬぐえない。しかし、と河村さんはこう続けた。
「ここで決して忘れてはならないのは、税収が高インフレ要因で伸びる場合、大部分の歳出も高インフレに応じて金額を上げないと、政府からの支出や給付を受け取る側の企業や国民生活はとてもじゃないが回らなくなるということです」
財政規律を無視して補助金をばらまけ、というのではない。例えば、高齢者向けの年金や公務員の給与、公共事業の入札の予定価格などは物価上昇分を適宜上乗せしていかなければ国民や企業がないがしろにされる、と河村さんは説く。実際、人件費や資材調達費の高騰を受け、全国各地で公共工事の入札不調が相次いでいる。
負担できる人が負担
永田町の政治家や日銀、霞が関の官僚の中には、インフレ税の形でなし崩し的に国民に負担を強いることになっても、歳出効率化や増税といった正面からの財政再建に向き合わないで済ませられるならそれでかまわない、と考えている人が一定数いるのではないか、と河村さんは憤る。
「インフレが進行しても痛くもかゆくもない層が日本にはいます。いまなし崩し的に進んでいるのは、こうしたお金持ち優遇のいびつな政策運営です。インフレで厳しい生活を強いられている国民が声を上げない限り、お金持ちにおもねった政策が今後も続けられるでしょう」