
インフレが定着する中で家計から企業へ、企業から政府へと所得の移転が進んでいる。「見えない増税」ともいえる「インフレ税」の実態に迫った。AERA 2025年3月17日号より。
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収入が増えない中、この物価高は一体いつまで続くのか。
帝国データバンクは2月末、2025年の飲食料品の値上げ品目数は早ければ4月にも前年実績(1万2520品目)を上回り、年間で2万品目前後に達する可能性がある、と発表した。夏場にかけて断続的な値上げラッシュが見込まれ、値上げの勢いは前年と比べて大幅に強まっている、という。
内閣府が2月に発表した2024年10〜12月期の国内総生産(GDP)でも、コメや野菜など身近な食べものの値上がりの加速を背景に、個人消費の失速が浮かんだ。GDPの内訳の5割超を占める個人消費の伸びは0.1%増(3月11日発表の改定値で0.0%増に修正)にとどまり、鈍化傾向にある。
ただ、GDP全体で見ると、「さえない内需」の実態はつかみづらい。24年10〜12月期のGDPは年率換算で前期比2・8%増(改定値で2.2%増に修正)と3四半期連続でプラス成長を維持し、回復基調を維持しているからだ。これに対し、「成長の中身を見る限り、今期の成長は全くポジティブな評価はできない」と厳しい視線を注ぐのは、みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストだ。
「外需に牽引された成長で内需はさえないままです。その外需も、内需がさえないゆえに輸入が減っている側面や、インバウンド消費による『旅行サービスの輸出』の押し上げが寄与しているのが実態です」
着目すべきはGDI
確かに都内には「インバウンド向け」の高級飲食店も少なくない。ビジネスホテルも高くて利用しづらい、といった声もよく聞かれる。居住者の代わりに「訪日客」という非居住者が消費を増やしているだけ、との唐鎌さんの指摘にも頷ける。
実際、24年のGDPは約557兆円で、コロナ禍前の19年(約553兆円)と比較して微増にとどまっている。つまり、「ほとんど成長していない」ことが分かる。ただ、これでは現状認識には不十分だという。22年のロシアによるウクライナ侵攻を機に円安と資源高が併発したのに伴い、海外への所得流出が顕在化している内実を捉えきれないからだ。
円安の慢性化が輸入インフレをたきつけ、家計や企業の購買力を奪い、それが政治・経済面で大きな影響を与えているいま、着目すべきは国民の景気実感により近いGDI(国内総所得)だと唐鎌さんは言う。GDIは19年の約551兆円から、24年は約550兆円と減っているのだ。