
「このGDIの低迷は、円安発・輸入物価経由の物価上昇がインフレ税として個人消費を抑制している姿と符合します」(唐鎌さん)
インフレ税とは、物価上昇でお金の価値が下がり続けると、政府の借金の返済負担が実質的に軽くなり、増税と似た効果が表れることを指す。
「日本経済はいまインフレが定着する中で家計から企業へ、企業から政府へと所得の移転が進んでいます」(同)
所得の移転が進んだ結果、どの程度まで政府の財政再建は進んだのか。唐鎌さんが参考データとして提示するのが、一般政府(中央政府・地方公共団体・社会保障基金)の純債務残高(総債務から通貨や預金、負債証券などの金融資産を差し引いたもの)の名目GDP比率だ。新型コロナのパンデミックが発生した20年を境に政府の純債務は絶対額、名目GDP比ともにピークアウトし、名目GDP比は20年に130%近くだったのが、24年上半期の時点で86%まで大幅改善している。
この背景にあるのがインフレだ。
政府から見れば、インフレの影響で値上がりした財・サービスに対し、家計が保有する金融資産を従来以上に取り崩して消費税などの形で納税してくれることになり、債務残高をハイペースで減らすことができる。一方、家計から見れば、主体的な意思決定とは無関係にインフレの影響で可処分所得が減り、その一部が政府債務の返済に充てられる構図になっている。これはつまり、と唐鎌さんは続けた。
「現象として起きているのは『増税』そのものです」
低所得者に大きな負担
歳出削減や増税による財政再建であれば、選挙で選ばれた政治家が政策として実行するため、そこに民主主義国家としての正当性を見いだせる。しかし、インフレ税は国民が知らない間にお金が少しずつ抜かれていくようなもの。しかも、生活必需品の値上がりは低所得者により大きな負担を強いる。唐鎌さんは言う。
「可処分所得が減るのが増税の影響として挙げられますが、そういう意味では消費税もインフレ税も同じです。ただ、それを自覚している人は少ないということでしょう」
日本だけでなく、海外でもインフレが引き金となり、政権交代や与党の後退が相次いでいるのが現実だ。唐鎌さんはこう見据える。
「昨年の衆院選で与党が大負けしたのは都市部でした。インバウンド流入の影響が大きく、物価の上昇が激しい都市部から民意が変わるのは必然です。今夏の参院選でもインフレに苦しめられた批判的な民意が再び政府・与党に向けられる素地は十分あります」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2025年3月17日号より抜粋

