販売に携わるのは、ホームレスの人だけでなく、シングルマザー、コロナ禍でアルバイト先を失った大学生などさまざまな事情がある人たちだ。ビッグイシューの販売は男性が多いが、「夜パン」は女性の仕事にできると考えた。今年11月には練馬の古民家で昼間にカフェをオープン。野菜マルシェやフリーマーケットなども企画し、女性たちがつながり、仕事も生み出す場を目指している。

「どんなときも、人は食べて生きていく。『食べる』と『生きる』はくっついていて、食べることは、命を養うことなんですよね」と枝元はいう。

学生時代についたあだ名は「ねこちゃん」。病気になってからは午前中を自分の時間と決め、アロマオイルのマッサージや瞑想をしてゆっくり過ごす。「猫暮らし」と呼んでいる(撮影/植田真紗美)

 若い頃はただ食べて生きていくことに懸命だった。50代後半は親の介護をして看取(みと)り、「食」が紡ぐ命の尊さを実感した。そして66歳で間質性肺炎を患ってからは、野菜スープで養生し、自分の身体をいたわる生活を続けている。女一人生きるしんどさや不安はあるけれど、たちと暮らす家があり、ソウルメイトと思える伊藤比呂美の存在は心強い。ずっと仕事中心の暮らしをしてきたが、今は真っ白なスケジュール帳が好きになった。

「おばちゃんになって良かったなということもけっこうあるの。私たちは若い人たちに対して責任がある。今は絶望しそうなことばかりだけど、やっぱりビビらずに、おじさんたちとは違うやり方で笑いながらやっていかなくちゃと思うのね」

 キッチンにいるからこそ見える「未来」がある。食べて生きていくことの力強さと豊かさを失(な)くしてほしくないから、「一緒に未来をつくっていきましょう」と。枝元は今日も笑顔でキッチンに立つ。(文中敬称略)

(文・歌代幸子)

※AERA 2022年11月14日号

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