
「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。
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前回のこのコラムで、次女とふたりで5年ぶりにハワイに行ったことを書きました。すると、掲載された2月25日当日に、懐かしい友人から「記事読んだよ~」と電話がありました。友人と言っても20歳以上も年が離れている方なのですが、私が子どもたちを連れて初めてハワイに行った時に現地で出会った日本人ファミリーのママです。ここ数年は年賀状のやり取りのみになっていたため、着信があり、スマホにお名前が表示されたのを見た時には驚きましたが、とても嬉しかったです。当時20代だった息子さんも我が家の子どもたちと同じように車いすユーザーです。実際にお会いしたのはたった4回なのですが、私はこのファミリーからたくさんのことを学ばせていただきました。今回はこのつながりについて書いてみようと思います。
思い切って声をかけてみた
2011年12月。3歳になったばかりの足が不自由な息子と4歳の次女を連れ、移住を視野に初めてハワイへ行きました。どんな生活になるか分からず、この時だけは医療的ケアが必要な長女は実家に預け、約2カ月間滞在する予定で3人で渡米しました。生活を始めて3週間ほど経った頃、子どもたちをプリスクールに迎えに行くためにバスを待っていると、別のバスから20代くらいの男性が乗った車いすを押すファミリーが降りてきました。ママが車いすを押し、パパは、歩けてはいるものの身体が不自由な女の子の手を引いていました。慣れたようすで素早くバスから降り、笑顔がいっぱいなご家族でした。少し迷いましたが、思い切って日本語で声をかけてみました。
「日本の方ですか?」
「そうですよ」
「突然すみません。実はうちにも重心(重症心身障害児)の子がいるんです。とても慣れていらっしゃるようでしたので、もしこちらにお住まいなら少しお話を伺いたくて話しかけてしまいました」
「あらそうなの~? 泊まっているコンドミニアムはすぐそこだから、今から一緒に来ませんか?」
足が不自由な息子が一緒ならともかく、私ひとりではかなり怪しかったと思うのですが、ママはそんなことはまったく気にしていないようでした。
この時はプリスクールのお迎えの時間もあったため、連絡先を交換させてもらい、後日子どもたちも一緒に滞在先のコンドミニアムに伺う約束をして別れました。
その後はメールで改めて自己紹介をし、何度もやり取りをした後に翌週の日曜日に子どもたちを連れて遊びに行くことになりました。