
最初は期間限定の深夜番組だった
ナレーションを、当時エンタメ色が薄かった俳優の中井貴一さんに依頼したのも、サラメシの唯一無二の魅力につながった。
「正直“ダメ元”だったので、まさかオファーを受けてもらえるとは思いませんでした。貴一さんのナレーションは不思議なことに、我々が取材で感じた人物像や世界観とずれていることがほぼありません。筆の力で台本にかっこいいことを書くと、『そうじゃないんじゃない?』とナチュラルな言葉を提案されることも。まるで取材現場を見ていたかのような的確な指摘に驚くばかりでした」
実はサラメシはもともと、全10回の番組企画だった。しかも放送時間は土曜日の夜11時半~12時。真夜中に、中井さんが陽気なナレーションで昼ごはんを紹介する。その絶妙な“ズレ感”が奏功したのか、11年5月の放送スタート以来、14年続く長寿番組へと育っていった。東日本大震災後に起きた、人々の日常を丁寧にすくいとるような番組が支持される「テレビ業界のモードチェンジ」とも、ぴたりとはまったのかもしれない。
石井さんが大好きだった取材は、愚直な街頭インタビューだ。
「たとえば、数十年来の同期と久々に定食屋に行った2人組に、『仲良しなんですねー』と振ると、『いやいやー』と顔を見合わせる。その姿に2人の長い歴史を垣間見ますよね。コンビニのお茶だけで済ませた人にも、忙しかった理由と事情がある。街ゆく人との一瞬の出会いの中で、さまざまな物語に触れられるんです」