TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回は根岸吉太郎監督の映画「ゆきてかへらぬ」について。

監督:根岸吉太郎 脚本:田中陽造 出演:広瀬すず、木戸大聖、岡田将生
田中俊介、トータス松本、瀧内公美、草刈民代、カトウシンスケ、藤間爽子、柄本佑
©2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会 配給:キノフィルムズ
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この作品の美術を担った原田満生の色彩設計に唸ってしまった。
「まず、京都は墨色の世界にしたかった。つまり、艶っぽいモノクロの世界。黒、中也の番傘の赤、そして柿のオレンジ。ファーストシーンではこれらを際立たせたかったんです」
中原中也(木戸大聖)は詩を書くために柿をひとつ屋根に置いていた。
雨に濡れたその柿に名もなき女優・長谷川泰子(広瀬すず)が興味を抱き、17歳の中也と20歳のふたりは結びつく。
柿は美術監督・原田の技で鮮烈に浮かび、その色彩に惑わされるように若い男女が同棲を始める。それは詩のような流れだった。
中也は黒い丸帽子を深々と被り、マントを羽織っている。虚勢と背伸び、どこまでも愛らしい少年性。お馴染みの姿に、「汚れちまつた悲しみに……」と僕は思わず独り言ちた。

©2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会 配給:キノフィルムズ