6706メートルを1時間以内に走る。それを最後の一人になるまでひたすら繰り返す──。数日間、ほぼ眠らずに走り続ける究極のレースがある。この種目に魅せられた男と、彼が挑んだ大会を取材した。

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これまでも、「鉄人レース」と呼ばれる種目はいろいろと見聞きしてきた。ただ、この種目の存在を聞いたときはにわかには信じられなかった。世にあまたある種目のなかでも、純粋に「走る」という行為においてこれ以上の狂気を感じるものはない。
バックヤード・ウルトラは、2011年にアメリカで始まった新しいランニング種目だ。世界中に広まりつつあり、昨年行われた世界選手権国別対抗戦(各国の会場で同時にスタートするサテライト方式)には61カ国・地域が参戦した。

ルールはシンプルだ。1ラップ6706メートルのコースを1時間以内に走り、それを延々繰り返す。例えば45分でゴールすれば15分休憩を取り、またスタートする。1時間ごとのスタートに間に合わないか、リタイアを宣言するとその選手は競技終了となる。6706メートルという距離は24ラップ(丸1日)で100マイル(約160.9キロ)になることから設定された。レースはラストマン・スタンディング方式、つまり最後の一人になるまで何日でも続き、現在の世界記録は110ラップだという。競技時間4日半、走行距離は約738キロにもなる。1時間ごとの定時スタートが必須なので休憩は長くても連続20~30分程度。実際には各ラップを50分超で刻み、脚力を温存する選手が多い。ほぼ不眠で数日間走り続けるのだ。
ちなみに、世界陸連の傘下で超長距離走を統括する国際ウルトラランナーズ協会では6日間走という種目の世界記録を公認しているが、これはずっと走り続けるわけではなく、休憩・睡眠戦略が記録のカギを握る。過酷さを比べることは難しいし、すべきでもないのかもしれない。それでも、「数日間寝ずに走り続ける」ことがどれほどの負荷を心身にかけるのか。それは想像すら容易ではない。
2月、このバックヤード・ウルトラの国内大会が神奈川県・丹沢で開かれた。大会を企画したのは水野倫太郎(みちたろう・29)。丹沢の麓で暮らし、人材系企業で会社員をしながらランニングを続けている。