「謎マナーがネットのおもちゃにされている面はありますが、だからこそ正しいマナーを身に付けたいという風潮も感じます。マナーとして実践するかどうかは個人の自由ですが、失礼と受け取られるかもしれない行動は知っておいた方がいいでしょう。根拠のない謎マナーが大手を振ることがないように、そしてビジネスパーソンとして知っておくべき知識をまとめるためにこの特集をつくりました」

みな正解を知りたい

 では、そもそもマナーとは何なのか。マナー講師の諏内えみさんはこう話す。

「マナーとは、『人間関係を円滑にし、お互いが心地よく過ごすための知恵』のことです。基本的なゆるぎないマナーもありますが、場面によって正解が変わったり、大勢の意見で決まったりする面もあるんです」

 例えば、「新築祝いに火を連想させるものはNG」とするマナーの教科書は多い。電子調理器や圧力鍋もこれに照らせばNGになりかねない。しかし、諏内さんは続ける。

「相手のことを考えて、これがその人にあうだろう、使ってほしいと思えば選んでいいでしょう。『一般的には失礼かもしれないけれど、ぜひ使っていただきたくて』と一言添えれば、嫌な気持ちなんてしませんよね。相手のことを考え、思いを伝える気遣いこそが大切です」

 しかし、人は明確な答えを求めがちだとも言う。

「みな『正解』を知りたがるし、メディアでもはっきり言い切ることを求められます。マナー講師が悩みながら『もし皆が不快に思うなら……』と語ったことが過剰に注目されて、『謎マナー』として話題になっている面もあると思います」

 確かに私自身、日々の仕事や生活のなかでマナーに悩み、明確な答えを探すことがある。しかし諏内さんが言うように、マナーの本質は相手を慮ることだろう。それを忘れなければ、きっと謎マナーに踊らされることもないはずだ。

(編集部・川口穣)

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