元船員らは定期的に集まる「お茶会」を開いて情報交換している=2月15日、高知県室戸市(写真:濵田さん提供)

 久保さんのマグロ船のように、捕った魚が廃棄された船は、その年の末までに延べ992隻にのぼる。高知、神奈川、鹿児島など全国の船が被ばくした恐れがあることを意味する。

 室戸市の小笠原勝さん(90)も19歳で水爆実験に巻き込まれた。

「3月13日からビキニ近くで操業しておりました。ビキニの800キロ近くでした」

 マグロ船「第五海福丸」の機関員だった小笠原さんは、航行中は機関室の中で運転したが、操業中は屋外デッキで作業をしていた。

 順調に漁を終えて、神奈川・浦賀港に戻り、風呂に入って一休み。いつもと違ったのは、築地市場に入港してから。白衣の人たちに船内の放射線量を計測され、「水爆があった」と言われた。46年から世界中で核実験があったから合点がいった。命がけで捕った魚だが、沖に運んで捨てるよう命じられた。

「1カ月半の航海の配当はゼロ。たばこ銭くらいはもらった記憶があるが、補償金も一銭も入ってきません」

 すぐに体調不良に悩まされた。1年間は歯ぐきから出血した。歯ブラシが真っ赤になった。

「血液検査をしたら、白血球に異常があると言われました。心拍数が突然倍になって心臓病だと診断されたこともあります。被ばくが病気の引き金になったんじゃないかと病気になるたびに考えました」

(編集部・井上有紀子)

AERA 2025年3月3日号より抜粋

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