
全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2025年3月3日号には大成建設 クリーンエネルギー・環境事業推進本部 自然共生技術部 自然共生推進室 室長 鈴木菜々子さんが登場した。
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開発や気候変動の影響などで失われつつある生物多様性。このままでは社会や経済にさまざまなリスクをもたらすとして、回復に向かわせる「ネイチャーポジティブ」の動きは世界の潮流となっている。
その流れに対応しようと、2023年4月に自社が発足させた自然共生推進室の室長を務める。「建設業はインフラ整備を通して社会と経済を豊かにしてきました。これからは同時に自然も豊かにしていくのが使命です」
入社2年目から、都市や森に本来の自然を再生させるプロジェクトに携わってきた。その一つが富士山南陵工業団地(静岡県富士宮市、48ヘクタール)で実施した自然の森に倣った「10年の森づくり」だ。
造成の計画段階から自然の保全と再生を目指し、09年に工場の周囲(8ヘクタール)に多様な苗木を植えた。自然の森と同様に樹木同士を競争させ、10年後には勝ち抜いた樹木がつくる森になった。
都市再開発事業では、地域性を踏まえた植物を組み合わせることなどで「都市の森」を創出することに貢献。「自然を理解し、計画から施工まで丁寧に行うことで、場合によっては開発前よりも良好な自然環境を生み出せると感じました」
こうした取り組みはかつて建設業界では主流とは言えなかった。転機が訪れたのは、22年にカナダで開かれた生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)。ネイチャーポジティブの実現が国際的な目標となり、生物多様性の損失はどんな企業にとっても経営リスクになる時代が来た。
大学では植物生態学を専攻し、国内外の植生の調査に明け暮れた。「各地の自然をたくさん見たことで、日本の生物多様性の豊かさに気づけた。でも、その自然をだれもが身近に感じて生活できるわけではありません。その現状を変えたいと思いました」
自然と共生する社会を実現するため、生物多様性を生かしたインフラ整備を仕事にしたいと、建設業界に就職。専門性を高めようと大学院にも通い、林学の分野で修士、造園学分野で博士号を取得した。
「日常の中に多様な生きものがあふれる自然環境をつくれたら、みんながその恵みを享受することができるようになる。そんな豊かな社会を実現するビジネスモデルをつくり上げることが今の目標です」
(ライター・浴野朝香)
※AERA 2025年3月3日号