みなと・かなえ/1973年生まれ。2007年、第29回小説推理新人賞を「聖職者」で受賞。08年、『告白』を刊行。同作が第6回本屋大賞を受賞。12年、「望郷、海の星」で第65回日本推理作家協会賞短編部門、16年、『ユートピア』で第29回山本周五郎賞を受賞(撮影/写真映像部・東川哲也)
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 主人公・美佐が叔母の介護をきっかけに、叔母の“上巻”の人生を知っていく──。湊かなえさんの新作『C線上のアリア』は、生きてきたことの価値を知り、生きていくことの幸せを感じられるあたたかいミステリーだ。AERA 2025年2月24日号より。

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「この小説は私が団塊の世代の子ども、つまり第2次ベビーブームの生まれで、これから起こり得る介護などの問題に対して当事者として見えることがあるからこそ書けたと思います」

 湊かなえさんは、新作『C線上のアリア』についてそう語った。

 今年はいわゆる“2025年問題”の年で、団塊の世代が75歳以上となり、超高齢化社会を迎えることで、さまざまな問題が持ち上がるとされる。中でも医療や介護に関しては、その世代にとって大きな課題であり、他人事ではなくなる。介護と一言でいうが、直面している人にとっては心身ともに大きな負担になる。だからこそ湊さんは自分の親が元気なうちに小説として書いておこうと思ったとも話した。

 そもそも介護に関するお話を書こうと思ったのはどういう経緯があったのか。

「読者のリクエストに応えることがよくあるのですが、私と同世代の読者の方から介護に関するお話を読みたいという要望がありました。介護は私を含めて誰もが通る道なので、思い切って書いてみようと決めました」

介護に直面すると…

 物語は中学生の時に両親を亡くし叔母・弥生に育てられた美佐に、弥生と共に暮らしたまちの役場から一本の電話がかかってくるところから始まる。叔母・弥生に認知症の症状が見られるので対応してほしいと。

 かつては美しく丁寧に暮らしていた弥生の家は、当時の見る影もなく“ごみ屋敷”と化していた。あまりの落差に心を痛めながら片付けを進めていくと、鍵がかかった金庫が見つかった。

 また、懐かしいそのまちで元恋人の邦彦とも再会。邦彦の母親・菊枝も生活の問題があり、介護は邦彦の妻・菜穂に任され菜穂は精神的に追い詰められていた。

 美佐は弥生の家を片付けていくうちに弥生と菊枝、彼女らの家族をめぐる複雑な関係と、彼女らに秘められた物語を知っていくことになる。

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きちんとした人だから