『C線上のアリア』朝日新聞出版/定価:1870円(税込み)。朝日新聞連載中から注目を集めた小説を単行本化

 ちなみに湊さんは進学した際に親元を離れ、父親も単身赴任をしていたので、ほどよい距離感があり、親子であるが個人として接している部分も多いそうだ。

 湊さんの子どもも就職を機に独り立ちをしたことで距離ができた。

「うちはいい意味で個人に戻っています。上巻下巻と言いましたが、まだまだ新しいことは始まるし、新しい関係が生まれることも生きている限りは続いていきます」

それでも生きていく

『C線上のアリア』の登場人物で「みどり屋敷」に住む弥生にもこれまでの人生があり、これからの人生もある。

 美佐は弥生の家を片付けていくにつれ、弥生の人生の“上巻”や秘密を知っていく。同時に美佐の若かりし頃の思い出も弥生の人生に重なり合うように蘇ってくる。

 それぞれの人生が森の中の木々のように枝を伸ばし、互いが影響しあい、独自のみどり色を放っている。

「このお話にも出てきますが、みどり色といっても薄いものから濃いものまであり、一人ひとりが思うみどり色は違います。みんなが同じことを思うわけではありません。それを知ることも相手を知ることだと思います」

 また、みどりは信号では進めを意味する。みどり色は前を向いてまた新たな人生を進める意味もあるのかもしれない。

 弥生、美佐、邦彦、そして菊枝らの間でかつて起こった出来事は何だったのか、金庫から見つかったものとの関係は何か。美佐と邦彦はこの先どうなるのか、そして菜穂と美佐、邦彦の関係はどうなるのか……。

介護をする、介護を受けることは誰でも可能性があります。でも、介護は相手を深く知るきっかけにもなると思います。この物語が家族との接し方、まわりとの接し方、自分のあり方を考えるきっかけになればいいですね。

 介護となると人生の後半戦と思いつつも、まだまだこれから新しい人生がスタートするかもしれませんしね。私の小説はイヤミスって言われますが、今回はそうなっていないと思いますよ」

(ライター・鮎川哲也)

AERA 2025年2月24日号

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