2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、急速に進められる都心の再開発。それに伴い、老朽化の進む多くの建物も解体され、新しく生まれ変わろうとしています。



 その建物のなかには、1964年の東京オリンピックを機に、戦前や戦後すぐに建った木造の家屋を鉄筋コンクリートに建て替えたビルの数々も。当時ならではのデザインや工法、建材が用いられたそれらのビルは、随所に人手のかかった職人仕事が施され、ときに今時のビルよりもあたたかい風合いを持っていることもあるのだといいます。



 鈴木伸子さんによる本書『シブいビル』は、1960年代から70年代にかけて建てられた、魅力溢れるビルの数々を紹介。写真とともに、注目すべきポイントを教えてくれる一冊です。



 惜しまれつつも2015年8月、建て替えのため一時閉館したホテルオークラ東京本館。しかし今もなお、本館開業の11年後、1973年にオープンした、ホテルオークラ東京別館にて、オークラならではの優雅で落ち着いた雰囲気を感じることができるのだと鈴木さん。



「古代の切子玉を模した『オークラ・ランターン』と言われる照明、梅の花が咲いた形に置かれたロビーのチェアーなど、日本古来の意匠を取り入れたインテリアが、ここでは今も守り続けられている」(本書より)といいます。



 ロビーやエレベーターホール、宴会場の雰囲気は、本館と同じテイストに統一された別館。一方、本館のレストランは和風をアレンジしたインテリアが多かったのに対し、別館は西洋風。英国人のデザイナー、ロード・ケニルワースが、最上階ペントハウスフロアのインペリアルスイートや、フランス料理"ラ・ベル・エポック"、スコティッシュバー"バー ハイランダー"のデザインを担当したそう。



 なかでも"バー ハイランダー"は、1973年のオープン当時のインテリアがそのまま残っているのだといいます。



「タータンチェックの絨毯、スコットランドの進軍太鼓を用いたテーブルなど、まるで本物の彼の地の邸宅のような趣きを味わえる」(本書より)



 多くの著名人も訪れた"バー ハイランダー"ですが、そのなかにはジョン・レノンの姿も。ジョンがいつも座っていたとされるシートは"ジョン・レノンシート"と呼ばれ、変わらぬ姿で今もそこに在るそうです。



 昭和ならではの香りを感じることのできる、味わいあるビルの数々。現存しているうちに、実際に訪れてみてはいかがでしょうか。