支援体制の心強さから、独立開業を目指す従業員も多い(筆者撮影)

「私がマスターにしていただいたご恩を返したいと思っているんです。マスターが私にしてくれたように、従業員の独立を手伝ってあげたいという思いが常にあります。独立を目指している従業員は何よりモチベーションが違います。『かづ屋』出身店に行って初めて『かづ屋』を知る人も多く、元従業員たちの活躍は励みになっています。一人でも多く良いラーメン職人を育てたいというのが私の願いです」(數家さん)

 ラーメン店の倒産や閉店は毎年数多く出ている。數家さんは、それはラーメン屋の開業ハードルが低いからだと分析している。ラーメン店にはオープン景気があり一度大きな売り上げを作れるものの、のちに客数が安定せず、閉店に追い込まれるパターンは数多い。安易にラーメン店をオープンしてはつぶれるという流れが続いていることも否めないだろう。

「たくさんラーメン屋ができるからたくさんつぶれるのです。技術を習得せずにラーメンを始めてしまうと、仕込みなどすべての工程に時間がかかり、寝ずに働く状態に陥ってしまいます。店主の賃金が都の最低賃金以下というお店も少なくないでしょう。きちんと修業して技術を身につければ、決められた時間の中でしっかり売り上げが上げられるようになります。大学だって4年間通うのですから、ラーメンの修業もそれなりに必要なのです」(數家さん)

「かづ家」のお品書き(筆者撮影)

 數家さんは独立を目指す従業員には5年なんとか頑張れと声をかけている。「ラーメンを通じていい人生を歩んでほしい」というのが數家さんの想いである。

「ラーメン屋は凡人でも真面目にやれば飯を食っていける職業です。技術さえ身につければ才能は必要ありません。不器用でも一生懸命やれば一人前になれるんです」(數家さん)

 數家さんはラーメン職人を育てながら、自身のラーメンにこれからも磨きをかけていく。(ラーメンライター・井手隊長)

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