支那ソバ かづ屋/東京都目黒区下目黒3-2-4/店舗の公式X(@sinasoba_kaduya)も更新中(筆者撮影)

■「町中華」より強めの味

 この頃はまだ「ラーメン専門店」というのはそれほどなく、町中華が多かった時代。その中で「たんたん亭」は革新的な店だった。開業6年目で、既に行列を作っていた。当時はテレビでラーメンの特集が組まれることも多く、「たんたん亭」はラーメン雑誌のハシリとなる『ベスト・オブ・ラーメン』でも紹介されるなど、これから盛り上がるラーメンブームを象徴する店の一つでもあった。

「『たんたん亭』は町中華から脱皮したようなラーメン屋さんでした。町中華のラーメンよりもワンランク強めの味で、煮干しの量や、強めの清湯にする作り方など、今までとはちょっと違うやり方で独自の味を出していました。チャーシューも革新的で、ちまたには煮豚のお店が多かった中、オーブンを使って焼いていました。まさに“ラーメン専門店”への変化の過程を見ていたような気がします」(數家さん)

「たんたん亭」の看板メニューはなんといっても「ワンタンメン」。東京のワンタンメンの火付け役ともいわれるその一杯は多くのラーメンファンをうならせた。それまでのワンタンメンは、薄い皮で少量の豚肉を包んでいるスタイルが多かったが、「たんたん亭」のワンタンはてるてる坊主型の大ぶりのものだった。店主の石原敏さんが広東や香港のワンタンを食べて影響を受け、作ったものだという。

麺は細めストレートの自家製麺。鶏ガラ、豚のスープをベースに煮干しや鯖節をプラス。滋味深くて本当においしい(筆者撮影)

「「たんたん亭」のマスターの石原さんは元役者で舞台俳優をやられていました。文学座の研究生だったそうです。その後、料理人に転身するんですが、料理が趣味みたいな人でその引き出しの多さには驚かされました。私が店長を任された頃にはフランスに料理修業に行っていたこともあります」(數家さん)

 修業を続ける中で、數家さんは「たんたん亭」の店長に抜擢され、味づくりをまでしっかり任されるようになった。その頃「たんたん亭」が手がけていた高井戸の町中華の店では、のちに「八島」で独立する故・浅沼さんもいた。

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