元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】自家製「日の丸弁当」はこちら

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 最近、地味な悩み事あり。それは「弁当問題」。

 縁あってテレビ番組に呼んで頂くことがあり、その際出るお弁当が毎回楽しみだった。滅多に外食しない身には、目に飛び込んでくる色とりどりのおかずが宝箱のようで嬉しく。だが最近、フタを開けるのが恐怖となりつつある。

 なぜって……あの楽しみにしていたおかずがですね、もうすんごいことになって来たんですよ。

「豪華ノリ弁」が登場した辺りから雲行きが怪しくなってきて、今じゃご飯が行方不明になるくらいのテンコ盛りオカズ攻勢。量はもちろん、素材味付け調理法全てにおいて全オカズが全力で存在を主張するのが普通になった。残すのが嫌なので完食するんだが、半分食べたあたりから必死である。戦いである。斬っても斬っても次々立ち現れる濃すぎるオカズたちに立ち向かう宮本武蔵である。

自家製日の丸弁当。トシのせいか、もうこれで十分な気もします(写真/本人提供)

 先日は、やっと全員を斬り倒しようやく現れた味方(ご飯)としみじみ過ごそうと思ったら、ご飯の中からコッテリ味付けゆで卵! こ、こんなところに地雷がっ。また先日は「鮭弁当」とあったのでやっと普通の弁当だと安心して開けたら通常の3倍厚の鮭がドドーン。どうしても完食できず巨大鮭を半分持ち帰り二日間かけて家で食べた。

 一体なぜこんな状況になったのか。一説によればコロナ禍によるテイクアウトブームで弁当業者が一気に増え、激しい競争を繰り広げた結果という。競争は良き結果を生むと一般に考えられているが、そうとも言い切れぬことを私は学んだ。ビジュアルとインパクトがカネを生むSNS時代において、競争とは際限なき派手化である。もっと言えば印象の派手化である。食べる人の気持ちや体調は差し置いてもとにかく派手化……と、ここまで書いたところでハッとした。もしかしてあれを食べる人は完食なんてしないんじゃ? 写真撮ってSNSに上げて、あとは食べたいだけ食べて捨ててるのでは? だから文句も出ないんじゃ?

 普通のものを普通に食べることが一番贅沢である。

AERA 2025年2月24日号

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